徳川まつり
『お送りしています"姫のわんだほー!らじおキャッスル!"』
徳川まつり
『今日はと~ってもきゅーと!なゲストが遊びに来てくれたのです。どうぞ~』
木下ひなた
『みなさん、おばんです。木下ひなただよぉ』
徳川まつり
『ひなたちゃんは姫の番組に来るのは初めてなのですよね?』
木下ひなた
『うん。急に決まってびっくらしたけど、いつも聞いてるからここに来られて嬉しいんだわぁ』
徳川まつり
『ほ?姫の番組は深夜なのです?ひなたちゃんはそんな遅くまで起きているのです?』
木下ひなた
『実は同じ事務所のエミリーちゃんにあとで聞く方法を教えてもらったんだぁ』
木下ひなた
『収録はお昼で助かったべさ。夜遅いのはあんまし得意じゃないからねぇ』
徳川まつり
『なるほど、そのわんだほー!な方法って……もしかしてradic○なのです?』
木下ひなた
『まつり姫さん、知っとるんかい!』
徳川まつり
『もちろんなのです!radi○oさんは姫の番組の大事なスポンサーさんなのですよ!』
徳川まつり
『そんな素敵なスポンサーさんからのお知らせの後はひなたちゃんとお便りトークをするのですよ』
徳川まつり
『みなさん、ちゃんと聞いていってくださいね♪』
馬場このみ
スピーカーからCMが流れるとひなたちゃんの顔に安堵の笑みがこぼれた。
馬場このみ
それを見たまつりちゃんがすかさず声をかけると、ひなたちゃんは頬を赤くした。
馬場このみ
『姫のわんだほー!らじおキャッスル!』は深夜に放送されているまつりちゃんの番組だ。
馬場このみ
中部地方のローカルFMでの放送にも関わらず根強い人気があるのは、まつりちゃんの力と言える。
馬場このみ
ブースの中のまつりちゃんと目が合う。まつりちゃんがひらひらと手を振ってきた。
徳川まつり
「……ひなたちゃんが、です?」
馬場このみ
番組の収録前、私はスタジオ前の廊下にまつりちゃんを呼び出していた。
馬場このみ
「ええ、だから、ひなたちゃんにあったキャラづくりを指南して欲しいのよ。ダメかしら?」
徳川まつり
「……
徳川まつり
「……お断りするのです」
馬場このみ
「え?」
徳川まつり
「お断りすると言ったのです。姫の番組は姫のものなのです」
馬場このみ
予想していなかった答えに私は二の句が継げずにいた。
徳川まつり
「ひなたちゃんがキャラづくりしているっていう確証はあるのです?推測なのですよね?」
徳川まつり
「そんなあいまいな情報で姫の番組を使わないで欲しいのです」
馬場このみ
言いたいことは分かる。でも、私だって引き下がれない。
馬場このみ
「確かに本人に聞いたわけじゃないから確証はないわ。キャラづくりはしていないかもしれない」
馬場このみ
「でも、ひなたちゃんが何か悩んでいることは確かなの」
馬場このみ
「指南はいいわ。キャラづくりをしているのかどうかははっきりさせておきたいの。お願い!」
馬場このみ
私はまっすぐ頭を下げた。
徳川まつり
「……プロデューサー、ううん、このみさんは分かっていないのです」
徳川まつり
「姫は、姫の番組を楽しみにしているみんなのために番組をやっているのです」
徳川まつり
「ひなたちゃんが、どうっていうのは、今、関係ないのです」
馬場このみ
……私は何も反論できないまま奥歯をかみしめた。
徳川まつり
「でも……リスナーからそういう質問が来たら聞かざるを得ないのです」
馬場このみ
「……メール?」
徳川まつり
「もしも、の話なのです。ファンの期待には応えないといけないのです」
徳川まつり
「それじゃあ、姫は打ち合わせに入るのです。10分後にはメールのチェックをしないとなのです」
馬場このみ
私は閉まるドアに向かってもう一度大きくお辞儀をした。
徳川まつり
『はいほー!姫のわんだほー!らじおキャッスル!今晩はひなたちゃんが来てくれているのです』
馬場このみ
CMが明けて、番組が進行する。
徳川まつり
『それでは早速いくのです。"姫への目安箱!"のコーナー!』
徳川まつり
『このコーナーではリスナーのみんなが姫へお悩み相談するコーナーなのです』
徳川まつり
『それじゃあ、ひなたちゃん、今日のメールをお願いするのです』
木下ひなた
『えーっと、MN"セクシーすぎるプロデューサー"さんからだよぉ!』
馬場このみ
「……ありがとう、まつりちゃん」
馬場このみ
私はギュッと両手を握って、ブースを見守った。
(台詞数: 50)