最上静香
掲示板に貼り出された紙。そこに、予選通過者の名前とその順位が書かれている。
最上静香
ところで、順位とは何かといえば、これは予選が追加された第2回からのルール。
最上静香
一回戦で当たる相手は、この順位の組み合わせで決まることになる。
最上静香
1位は8位と、2位は7位と、のように、順位の高い順と、順位の低い順の組み合わせで。
最上静香
順位次第で優位なポジションにつけるのだから、予選を頑張るのも意味があるようになっていた。
最上静香
私は、上の順位から、名前を確認することにする。
最上静香
1位は翼。流石ね…。
最上静香
2位は紗代子さん。3位は奈緒さん。この二人も、納得の順位。
最上静香
4位は、エレナさん。5位には野々原さん。…胸が苦しくなってきた。
最上静香
6位は、瑞希さん。そして、7位は静香さん…じゃなくて!
最上静香
…あった!私の名前!
最上静香
覚悟は決めたと思っていたけど、いざこうなってみれば、安堵で膝が抜けるようだった。
春日未来
「あった!やったね、静香ちゃん!おめでとー!」
如月千早
「おめでとう、静香。」
最上静香
二人の祝福に笑顔を返しながら、私は最後の、自分の下にある名前を確認する。
最上静香
…志保は、ダメだったのね。
最上静香
8人目には、敗者復活組から琴葉さんが滑りこんでいた。
最上静香
成績の上位6人に名を連ねるのは、今回初出場の、つまり敗者復活組以外の出場者。
最上静香
その事実は、私の考えがほぼ的を射ていたということを示している。
最上静香
…私には、教訓があった。
最上静香
桃子に負けたあの時、貴音さんは、観客の心理を私の敗北の要因として挙げていた。
最上静香
今回は、観客の心理を審査員に置き換えて考えてみればいい。
最上静香
誰のファンでもなく、多少の好みはあっても、まずは公平な審査を第一に心掛けている人たち。
最上静香
ところで、その公平という価値観から見れば、明らかにいびつな存在がある。
最上静香
それは、原則一回のチャンスしか与えられない中で二度目の機会を得た、私たち敗者復活組。
最上静香
敗者復活組が、初出場組を押し退けてまで勝ち上がることは、あってはいけない不公平。
最上静香
だから、本選への門は、基本的に私たち敗者復活組には開かれていないものではないか、と。
最上静香
もし『もう一度』が許されるとすれば。そして敗者復活の意義があるとすれば、それはただ一つ。
最上静香
このアイドルを、それでもなお観客に見せたいと思わせる『何か』があった時だけ。
最上静香
それほどの、公平の天秤を揺るがすほどの重みが無ければ、きっとこの狭き門は開かない。
最上静香
そこまで思い至ったとき、私は『新しい最上静香』を見せることを決めた。
最上静香
そして、人目を避けて、自分の変化を徹底的に隠し続けた。
最上静香
噂などで知られるのではなく、劇的に、驚きをもって、新しい私を知ってほしかったから。
最上静香
結果として私は、私自身でも驚くほどの自分を武器として、門を突破することができたけど…。
最上静香
…志保の姿は見えなかった。結果をすでに見たのか。まだ見ていないのか。
最上静香
努力家で、甘えなど微塵も無くて、今回もほぼ完璧に仕上げてきたのは確信できる。
最上静香
決して自分を曲げず。誇り高いと思う。羨ましいとも思う。
最上静香
でも、それは桃子と対戦した私のように、審査員の求めるものからはかけ離れていた。
最上静香
この敗北はつらい。立ち直るのが、いつになるのかわからないくらいに。
最上静香
かつて同じ苦しみに身を浸した私は、自分一人の勝利に酔うことは、とてもできなかった。
如月千早
「静香。思うところはあるかもしれないけど…まずは、ね?」
最上静香
千早さんの声が、私を現実に引き戻す。
最上静香
そうね…。私はまだ最初の一歩が階段に届いただけ。感傷にはまだ早い。
最上静香
私は、もう一回、結果発表の紙に目を向ける。
最上静香
視線の先にある名前は。7位の私と当たるのは、2位で予選を通過した紗代子さん。
最上静香
それは、私が全力で当たっても勝敗が見えない、まさに強敵と言える人の名前だった。
(台詞数: 46)