豊川風花
クリスマスの翌朝。前のお仕事なら年末はお休みですが、アイドルはこの時期もお仕事です。
豊川風花
昨日のライブで疲れてますけど、気分は晴れやかです。今日は『ネコちゃん』と出勤ですから。
豊川風花
あ、本当に猫を連れているわけじゃないです。今日の髪留め。私の長さなら要らないんですけどね。
豊川風花
プロデューサーさんの贈り物。シルバーのネコちゃん。ブランドロゴは無いから出処不明ですけど、
豊川風花
私のために見たててもらえたなんて……こんなに嬉しいクリスマス、初めてかもしれません。
豊川風花
嬉し過ぎて、昨夜は『あんな事』しちゃったんですね……うう、思い返すと恥ずかしくなります。
豊川風花
「おはようございます。今日も一日、よろしくお願いします。」
豊川風花
……プロデューサーさんは不在みたいです。事務所の奥からは、みんなの話し声がします。
中谷育
「……ちがうもん。プロデューサーさんは、わたしと『けっこん』したんだもん!」
徳川まつり
「育ちゃん、指輪を贈るだけで結婚はできないのです?甘い甘い求婚のセリフも必要なのです。」
中谷育
「じゃあ、けっこんのじゃなくて『こんやくゆびわ』なのかな?クリスマスは特別な日だから。」
徳川まつり
「年端も行かぬ育ちゃんをその気にさせてしまうなんて、プロデューサーさんは罪作りなのです。」
豊川風花
……そうですよね。私以外のみんなにも、クリスマスプレゼントをあげてますよね。
豊川風花
……だけど、わざわざ指輪なんて選ばなくてもいいのに。プロデューサーさん、酷いですよ。
豊川風花
……いえ、きっと違いますよね。
豊川風花
育ちゃんは『大人』に憧れてるから、一年間のご褒美に、大人の雰囲気の品を贈ったんですよね。
徳川まつり
「ぐっもーにん!なのです、風花ちゃん。今日も一日、はいほー!な気分で頑張るのです!」
豊川風花
「おはようございます、まつりちゃん。いつもより楽しそうだけど、何かいい事あったのかしら。」
徳川まつり
「……ええと、ですね。」
徳川まつり
「……姫の元気の源は……乙女の秘密、なのです、よ。」
豊川風花
……いつもの様子とは違う、誤魔化す振る舞いのまつりちゃん。
豊川風花
それと、咄嗟に隠そうとしたまつりちゃんの右薬指には……昨日まで見たこと無かった、指輪の跡。
豊川風花
……
豊川風花
……おとぎの国の住民みたいだけど、まつりちゃんは19歳、ですよね。
豊川風花
……育ちゃんとは、贈る意味合いが違うかもしれませんよね。……指輪、なんだから。
豊川風花
……なんででしょうか。さっきまで私、世界で一番幸せなクリスマスを過ごしたと自惚れてたのに、
豊川風花
なんだか今は、それは虚しい夢だったみたい。
豊川風花
それとも、クリスマスは現実だけど、醒めることない永い悪夢が始まったのかしら。
豊川風花
……
豊川風花
……
豊川風花
「プ、プロデューサーさん!昨日はみんなのサンタさんで忙しかったみたいですね!」
豊川風花
……移動中の車内。二人きりになった時、思わず叫んでしまいました……
豊川風花
……呆気に取られてるプロデューサーさん。びっくりさせてしまって、申し訳ないような……
豊川風花
……ええい、口にしちゃったらもう後には引けない!モヤモヤを全部叫んじゃうんだから!
豊川風花
「な、なんで他の子には指輪を贈ったのに……私には髪留め、なんですか!?」
豊川風花
……年下の娘に嫉妬してるの、バレバレ……ですね。こんな事言っちゃったら、絶対後悔するのに。
豊川風花
プロデューサーさんの顔、まともに見ることができません。車内から逃げることもできないし……
豊川風花
……
豊川風花
『……すまなかったな、風花。本当は、指輪を選びたかったんだが……』
豊川風花
沈黙を破ったのは、プロデューサーさんでした。プロデューサーさん、顔は合わせてくれないけど、
豊川風花
……いや、運転中は余所見できないですよね。それに気づかないくらい、動転してる私。
豊川風花
『大人の女性向けので、猫モチーフのものは、結局良いのが見つからなかったんだ。』
豊川風花
『仕方が無いから、自作したんだが……やっぱり素人の手では、それなりにしかならなくて。』
豊川風花
『来年はもっといいプレゼントを用意するから、今年はそれで勘弁してくれ、な。』
豊川風花
……
豊川風花
もう。プロデューサーさんは、本当の事や大事な事を言ってくれないから、キライです。
豊川風花
……クリスマス。多くの人が贈り物をして、多くの人が受け取る聖夜。
豊川風花
相手を想うことは、みんな同じで、みんな等しく尊いことかもしれませんけど……
豊川風花
わ、私が、世界で一番『特別』だったって自惚れても……いいです、よね。
(台詞数: 49)