最上静香
着替えを終えて控室を出ると、未来の隣に立つ人の姿が目に入ってきた。
如月千早
「お疲れ様、静香。」
最上静香
そこには、今回のトーナメントの件で、私が色々とお世話になった千早さんの姿が。
如月千早
「どうやら、調子は良かったみたいね。安心したわ。」
最上静香
「ありがとうございます。全部、千早さんのおかげです。」
如月千早
「そんなことないわよ。私は少し手助けをしただけ…。」
最上静香
千早さんは謙遜してるけど、もしその手助けが無かったら、私はどうなっていたのか…。
最上静香
…あれは、第2回のトーナメントが終わって、少し経った頃。
最上静香
貴音さんが優勝したということについては、既に知っての通り。
最上静香
そして、優勝という結果のみならず、その過程でも、貴音さんは水際立っていた。
最上静香
貴音さんの対戦相手は、一回戦が真さん。準決勝があずささん。決勝が響さん。
最上静香
誰一人とっても、優勝候補と言っても過言ではない、765プロ屈指の実力者ばかり。
最上静香
その過酷な組み合わせに、流石の貴音さんも、途中で力尽きるのではって思っていた。
最上静香
ところが、貴音さんはまるで一戦ごとに力を増すようにして、ついには優勝を手にしてしまった。
最上静香
それは、桃子が美希さんと互角に渡り合ったときに見せた力にも似ていて。
最上静香
さらに差をつけられたような焦りを覚えた私は、それから無茶な練習を繰り返すことになる。
最上静香
でも、そんなものでどうにかなるわけでもなく。私は次第に心と体のバランスを崩していった。
最上静香
その最中、千早さんに自主練を見てもらったときの言葉が、私を正気に戻してくれた。
如月千早
「…ひびが入っているわね。」
最上静香
千早さんは、私の状態をそんな言葉で言い表した。
最上静香
独特の表現だけど、自分がかなり悪い方向に進んでいることだけは、すぐに理解できる。
最上静香
それを聞いて落ち込む私を、千早さんは優しく励ましてくれて。
如月千早
「…私だって、何度もひびを入れて、何度も壊れての繰り返しだったわ。」
如月千早
「そして、その度に自分をまた強く、大きく作り上げてきたのよ。」
如月千早
「だから、静香も大丈夫。」
如月千早
「あなたの心の土台が揺るがない限りは、何度だって立ち上がれるわ。」
最上静香
千早さんの言葉に救われた私は、一から自分のかたちというものを模索していくことに決めた。
如月千早
「私の土台?やっぱり、歌が好きという気持ちかしらね。」
如月千早
「それと、たくさんの人たちが私に注いでくれた、たくさんの真心。」
如月千早
「前しか見ていないときは、意外と気付かないものだけど、ね。」
最上静香
そう言って照れ笑いした千早さんの顔が、私にはまぶしくて。
最上静香
それが、私のかたちにひとつの方向性を与えてくれることになる。
最上静香
そこから生まれたのが、さっき歌った『GO MY WAY!!』。
最上静香
歌うまでは不安だったけど、実際にやってみると、この歌は多くの驚きと気付きに満ちていた。
最上静香
良い方向に自分が変われたということに対する喜び。
最上静香
こんな素敵な仲間に、友達に恵まれていたんだっていう感謝。
最上静香
それらがもたらしてくれた、歌を終えた時の充実感は、今までに無いほどだった。
最上静香
このまま、新しい私で進んでいこう。改めて、そう思う。
最上静香
新しく歩みを始めたばかりの私が、どこまで通用するかはまだわからないけど…。
最上静香
貴音さんや桃子の前に立つ自分は、そういう自分でありたいと思うから。
春日未来
「静香ちゃん、そろそろ結果発表の時間だよ!見に行こっ!」
最上静香
私のことをまるで自分のことのように、喜び、悲しんでくれる友達。
如月千早
「きっと、大丈夫。信じてるから。」
最上静香
私を優しく見守り、励まし、導いてくれる先輩。
最上静香
二人と並びながら、私は結果発表の場へと進む。
最上静香
不安はある。恐れもある。
最上静香
でも、それが今の自分の結果であるのならば、どんなものだって受け入れるつもり。
最上静香
その覚悟だけは、ほんのわずかだって揺るがなかった。
(台詞数: 48)