雪月夜
BGM
Decided
脚本家
mayoi
投稿日時
2017-01-28 16:42:33

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如月千早
雪の夜だった。
如月千早
周囲に灯りはなく、木々が枝を剥き出しにして立っている。
如月千早
雲に覆われたはずの月は何故か眩しく、少し大きすぎるように思った。
如月千早
ただ穏やかに雪が降っていた。
如月千早
酷く冷えると思い、私は上着を置いてきたことを思った。
如月千早
外の寒さを意識していながら、私はしかし上着を持たずに出かけていた。
如月千早
雪を蹴る足が重い。雪がまとわりつくように。同じ高さへと私を引き入れるように。
如月千早
どれだけ歩こうと私は再び雪の中に足を降ろすのであり、それは無意味な行為だと感じた。
如月千早
白い視界で木々は暗く、私を無表情に眺めているようだった。
如月千早
私は歩くことをやめた。
如月千早
胸に左手を当て、続く一方の手は空へ。
如月千早
凛とした空気のなかで私は喉を震わせる。
如月千早
呼気に乗せる、名も無い歌は澄んだ外気に溶けていく。
如月千早
否、歌ってなどいなかったのかもしれない。
如月千早
粛然たる冬を前に、自分が声を出しているのかも分からなかった。
如月千早
ただ歌うべきだと感じていた。
如月千早
風が吹き始めた。
如月千早
視界の隅で雪原が光る。
如月千早
脆い雪が吹き飛び、その際に月明かりを反射しているのだろう。
如月千早
吹きつける風の冷たさも忘れ、光を目で追い続けた。
如月千早
その光に、あてもなく外出した理由を求めていた。
如月千早
風は激しさを増す。私に呼応するように。
如月千早
寒さを感じなければならない筈だった。こんな雪の夜に理由もなく外出してはならないと思った。
如月千早
しかしもう沢山だった。そのようなものに縛られることがたまらなく嫌だった。
如月千早
静かに狂う私に雪が打ち付ける。
如月千早
逆巻く猛吹雪。
如月千早
眼前の光景がかすれ、歪む。
如月千早
その激しさに閉じそうになる瞳を、しかし私は押し開く。
如月千早
見届けようと思った。
如月千早
重力から弾かれるように雪たちは夜を駆ける。
如月千早
星さえ無い空を目指し、旋回とともに上昇。
如月千早
髪を巻き上げる荒々しい流れが遥か頭上でスローモーションに変わる。
如月千早
頬に付いた雪片を私の熱が溶かし、水滴となり舞い上がっていく。
如月千早
神韻を帯びる螺旋。全ては白へと還る。
如月千早
──────。
最上静香
ヘッドホンを外す。
最上静香
それを試聴機のフックに掛け、高揚した気分を鎮めていく。
最上静香
このような歌があるのだと思う。
最上静香
聴く者を圧倒する歌が。私には到達しえないと思わせる歌が。
最上静香
敗北を認めている私がいた。それにも関わらず笑みが零れる。
最上静香
まだまだこれからだ。

(台詞数: 41)