如月千早
もしも天球が廻るのなら……私も、いつの日か出会えるのでしょうか。
四条貴音
星は巡り出すと途方もありません。人の一生では難しいかもしれませんね。
如月千早
……。
四条貴音
今日は随分と長い間、空を見上げるのですね。
如月千早
ここのところ、忙しくて空を見る暇もありませんでしたから。
如月千早
この空白の時間も、相手方のキャンセルで偶然生まれたものなんです。
四条貴音
成る程。それで、空ですか。
如月千早
はい。何もせずに呆けていたら、カーテンの隙間から星が見えて、
如月千早
それで、初めて今日が晴れだと認識しました。
四条貴音
それは重畳。今宵の空は特に澄んでおりますから。
如月千早
四条さんも、よく月を見ていますね。
四条貴音
ええ、不思議と心が落ち着いてくるのです。
如月千早
不思議……ですか。
四条貴音
……?
如月千早
四条さんの月を見る眼差しは……今の私と、少し似てるような気がします。
如月千早
私は……。
四条貴音
千早、覚えておりますか?
四条貴音
いつかの縁日で、私は「誰にも、他人に言えない事の一つや二つあるものだ」と言いました。
四条貴音
あの時の事を思い出し、今一度、自分がすべき発言を見直してみてはいかがでしょう。
四条貴音
“それ”を本当に口にして良いのか、それとも胸に秘めたままにしておくか。
如月千早
……。
如月千早
昔、読んであげた絵本のフレーズが、頭の中でリフレインしてるんです。
如月千早
少年はお星さまになって、いつまでも、いつまでも、見守っているのでした──。
如月千早
そんな「夢も希望ない話」を知らずにいたら、こうして空を探さずに済んだのではないか、
如月千早
この情念を捨ててしまえば、もっと明るく振る舞えるのではないか、と考えてしまうんです。
如月千早
……ごめんなさい、こんな戯言を聞かせてしまって。
四条貴音
構いません。かつては私も、月など見えぬ方が良いのでは? と懊悩したものです。
如月千早
四条さんが?
四条貴音
ええ、それはもう。
四条貴音
こちらへ越して来た際には望郷の念に駆られ、よく涙を流しました。
如月千早
俄には信じがたいのですが。
四条貴音
ふふ、信じるも信じないも千早次第です。
如月千早
私次第……。
四条貴音
そして、ある泣き明かした朝、答えに至りました。仮に私から月を隠してしまったら、
四条貴音
私は、私でなくなってしまう、と。
四条貴音
千早、人は生きるに当たって、余計な情念などないのです。
四条貴音
それがたとえ負の力を持っていたとしても、千早を構築する大切な要素ではないのですか?
如月千早
……。
四条貴音
もしも天球が廻るのなら。
四条貴音
魂も同じように廻るでしょう。
四条貴音
星から星になるかもしれません。若しくは人になるのかもしれません。
四条貴音
いずれにせよ。
四条貴音
千早、あなた自身が輝けば良いのです。
如月千早
私、が……?
四条貴音
そうです。見つけられないのなら、見つけてもらいましょう。
四条貴音
あいどるに舞い戻った千早なら、十分に可能でしょう?
如月千早
……そう、ですね。しばらく忘れていた気がします。
如月千早
アイドルとして、姉として、私がすべき事。そんな大切な事すら忙殺されていたんですね。
如月千早
……四条さん、ありがとうございました。
如月千早
私はもう、二度と見失いません。
(台詞数: 50)