
箱崎星梨花
張り詰めた空気の中、二人の駒音だけが響く。

黒井社長
先手:黒井崇男「フン、泣いて謝るなら今のうちだぞ」

宮尾美也
後手:宮尾美也「なんのなんの~、こんな楽しい勝負を放り出すなんて、あり得ませんぞ~?」

宮尾美也
「おお~、振り飛車矢倉ですか~、なかなか渋いですな~。ならばこちらは……」

黒井社長
「何?棒銀だと!?」

宮尾美也
「相矢倉とも思いましたが、面白そうなのはやはり、こちらかと~」

黒井社長
「バカが!そんな研究され尽くした手が、この私に通じるとでも思っているのか?」

宮尾美也
「確かに、棒銀の対処法は何百通りと有りますが~」

宮尾美也
「その全ての手順、黒井さんはちゃ~んと全部、覚えてますか~?」

箱崎星梨花
穏やかな口調はしかし、『自分は全てを諳じているぞ』と謂わんばかりに、凄味を帯びていた。

黒井社長
「フン、嘗めるなよ?小娘が………」

箱崎星梨花
黒井もまた、『俺の方が上だ』と、闘争心を露にする。

箱崎星梨花
…………局面が進むにつれ、徐々に二人の表情が変化する。

黒井社長
「………フン、最初の威勢の良さはどうした?」

宮尾美也
「む~ん、困りましたね~」

黒井社長
「さっさと負けを認めたらどうだ?ホレ、参りましたと言ってみろ!」

宮尾美也
「それがですね~、参りましたの前に言わなきゃいけない事があるんですが~」

黒井社長
「ん?何だ?」

宮尾美也
「ここ、矢倉の壁………歩がみっつ、縦に並んでるんですが~」

黒井社長
「あ、あれ?」

箱崎星梨花
「二歩どころか三歩!?」

宮尾美也
「あと、三手前、香車を横に動かしませんでしたか~?」

箱崎星梨花
「え?それってダメなんですか?」

宮尾美也
「ダメですね~」

黒井社長
「え、そうなの?」

箱崎星梨花
「……………」

宮尾美也
「………………」

黒井社長
「………ち、ちげーし!知ってたし!そんなのセレブの間でも常識だし!!」

箱崎星梨花
「と、いう事は………」

黒井社長
「フ、フン!今回ばかりは見逃してやるから!特別だから!失敬する!!」

宮尾美也
「さよなら~、約束は守って下さいね~♪」

宮尾美也
「良かったですね~、これで貴方は自由の身、お父さんの借金も帳消しですよ~」

箱崎星梨花
「あ、有り難うございます!えっと、あの、ところで、その………」

宮尾美也
「それでは私はこれにてドロンしますよ~。さらだば~♪」

箱崎星梨花
「ま、待ってください!!………あっっ!?」

箱崎星梨花
引き留める事の叶わぬ私を残して、

箱崎星梨花
微笑みを浮かべたまま、彼女は去ってしまった。

黒井社長
「積もる話もあったのではないのか?」

宮尾美也
「おや~、待っててくれたのですか~?」

黒井社長
「フン、言伝てを忘れていただけだ。返済額の振込み、確認したぞ。毎度あり、と言っておこうか」

宮尾美也
「こちらこそ~、借り入れ先の一本化と返済の一時肩代わり、有り難うございました~」

黒井社長
「良いのか?せっかく再会の場を設えてやったのに、ろくに話もしていないではないか」

宮尾美也
「………本来なら、会う事すら叶わなかった身です。これで充分ですよ~」

黒井社長
「あの小娘の方が、それだけでは納得しないだろうがな。気付いて追いかけて来るぞ」

宮尾美也
「残念ですが、それは有りませんよ~」

黒井社長
「?」

宮尾美也
「あの子………」

宮尾美也
「正座がとっても苦手なんですよ~♪」

箱崎星梨花
「た、立てません…………」
(台詞数: 49)