周防桃子
家出をして、保護をされた翌日中には桃子は子役女優からアイドルへと転向していた。
周防桃子
事務所では契約上の問題とかの話もされたけど…
周防桃子
大人の世界の話は…それをこなしてくれる人へと投げっぱなしにした。
周防桃子
これはね、両親(ふたり)に対しての最初で最後の我儘だって思う。
周防桃子
桃子の反抗期ていうのかな、例えるならそう、子供の特権ってやつ…
周防桃子
いままで使った事も無いそれを、桃子はついに使ってやったよ。
周防桃子
私物を入れた小さな箱を両脇に抱えて…
周防桃子
通い慣れた事務所の門をくぐった時、清々しい気持ちになれた。
周防桃子
それまで背負っていた重い両親の想い…
周防桃子
その重圧、ううん、呪縛から少しは解き放たれるような気になれたから…
周防桃子
桃子の決意を聞いたお父さんとお母さんは兎に角理由をつけて引き留めようとした。
周防桃子
でも、桃子の揺るがない決断を目の当たりにした二人は、ついにはもう何も答えなかった。
周防桃子
きっと呆れてたのかな。
周防桃子
二人がどんなことを思っているのかなんて、とても聞けないけれど…
周防桃子
でも、そんな悲しそうな顔をする二人を桃子は必ず笑顔にしてみせるからね。
周防桃子
桃子は黙ってそんな想いを胸に秘める。
周防桃子
そんな決意を胸に刻む。
高木社長
「娘さんを是非、我がプロダクションに預からせてほしい」
周防桃子
最後の最後には、桃子が移籍するプロダクションの社長さんが説得をしてくれた。
周防桃子
やっと、桃子の意思で、自分のやりたいようにできる、そう思えたら…
周防桃子
桃子の目に映る汚れた暗い世界にも一筋の光が差し込んだような気がする。
周防桃子
それもそうだよね。
周防桃子
桃子をこの世界に導いてくれた箱崎星梨花という女の子が…
周防桃子
今、桃子を笑顔で車の中へと、ううん、新しい世界へと迎え入れてくれているんだから…
箱崎星梨花
「改めて、これからよろしくお願いしますね。桃子ちゃん」
周防桃子
「言われなくてもそんなこと、わかってるよ」
箱崎星梨花
「えへへ…」
周防桃子
「なにがおかしいの?」
箱崎星梨花
「桃子ちゃん、素直じゃないなって思いまして」
周防桃子
「そっか」
箱崎星梨花
「はい」
周防桃子
「バレバレだよね…」
周防桃子
なにもかも…見え透かされてるって感じだ。
周防桃子
でも、本人はただ純粋に見つめてるだけなんだって思う。
周防桃子
ただ、純粋にこんな桃子のことを見てくれている。
周防桃子
きっと、それだけだ。
周防桃子
新しい事務所へ向かう途中、例の駅を通った。
周防桃子
そこには遠目に見える、ギターを弾いているストリートミュージシャン。
周防桃子
きっと、いつも同じ場所を陣取っているのかな。
周防桃子
言葉選びは最低だけど、また、その歌声で誰かの心を震わせているのかな。
周防桃子
聞こえてくるはずもない彼女の歌が、桃子の耳には聞こえてくるような気がする。
周防桃子
恐らく、桃子の耳に昨日の音色が残っていたんだろうね。
周防桃子
あそこではきっと、あの歌が歌われているって思った。
周防桃子
昨日聞いたばかりの、あの歌。
周防桃子
桃子は遠目に見えるあの人の口に合わせて、その歌を口ずさんでいた。
箱崎星梨花
「桃子ちゃん…」
周防桃子
「ん?」
箱崎星梨花
「その歌、なんていうんですか?」
周防桃子
「えっとね…」
周防桃子
「"スーパースターになったら…"」
(台詞数: 50)