周防桃子
ストリートミュージシャンに言われた言葉に妙に腹が立っていた。
周防桃子
ふくれっ面をして、夜の街に照りつける太陽の様に顔を真っ赤にして。
周防桃子
行く場所も決めないで、行きつく先も、怒りの矛先もわからないまま、ただ歩いていた。
周防桃子
あのストリートミュージシャン、歌声も、メロディーも凄く良かったのに…
周防桃子
言葉選びは最低なんだから!
周防桃子
デリカシーの欠片もないの!?
周防桃子
そんな風に考える度に、あの人の曲に涙を流していた自分に腹が立ってきた。
周防桃子
怒りの矛先が自分に向かいつつあるのがわかると、桃子はその場で興醒めし…
周防桃子
次は黙々と、事のあらましを冷静に分析し始めている。
周防桃子
どうして、あそこまで『迷子』という言葉に反応しちゃったのかな…
周防桃子
もう、とっくにわかっているはずなのに。
周防桃子
何故だか、その事実だけを頑なに認める訳にはいかなかった。
周防桃子
『迷子』という言葉は、今の桃子の現況を示すには、確かに言い得て妙なんだけど…
周防桃子
けど、言葉通りの『迷子』ではない。
周防桃子
それだけは、首を大きく横に振ってでも否定する。
周防桃子
それこそ、先程の剣幕を再び見せる事になると思う。
周防桃子
迷子には必ず行先も、帰る場所もあるんだよね。
周防桃子
けれど、今の桃子には行先がないんだ。
周防桃子
それに帰る場所、というか、帰りたい場所がない。
周防桃子
帰れる場所(そこから)は嫌気が差して逃げてきたんだから…
周防桃子
これからどうしたらいいかなんてわかるはずがないよ…
周防桃子
ただ、ただ、飛び出して来たんだよね。
周防桃子
あのお姉さんにはちょっと悪い事しちゃったかな…
周防桃子
でも、今更もう手遅れだよね。
周防桃子
だって、桃子、補導されちゃったから…
周防桃子
いぬのおまわりさんみたいに質問責めをしてくる警察官。
周防桃子
桃子は対等に喋る為にいつもの踏み台に乗って応対した。
周防桃子
お家を聞かれても答えない。
周防桃子
だってお家は捨てたから。
周防桃子
あの童謡みたいに、わんわんなきはしなかったけれど…
周防桃子
わんわん喚きはしていたかもしれない。
周防桃子
その結果、桃子はシャッター街の入り口が見える交番に連れて来られていた。
周防桃子
昔はよく…昔といっても、他のひとからしたらそんな昔の事じゃないかもしれないけどね…
周防桃子
春になると、あのシャッター街を越えた先にある公園で家族皆でお花見したんだ…
周防桃子
ほんの一瞬の幸せな家族の時間。
周防桃子
今はもう、随分遠くに感じちゃうね…
箱崎星梨花
「あの…」
周防桃子
「なに?」
周防桃子
交番内にて、桃子と同じくらい、もしくは年齢が少し上くらいの女の子に話しかけられた。
箱崎星梨花
「あなたも、迷子なんですか?」
周防桃子
「違うよ!桃子は迷子なんかじゃないもん!!」
周防桃子
また、ムキになって脹れ面をしちゃった。
周防桃子
「桃子はたまたま補導されちゃっただけだし」
箱崎星梨花
「わたしも、知らないお姉さんにここまで連れてこられちゃいました(泣)」
箱崎星梨花
「イベントで近くに来ていたんですけど…初めて入る商店街に夢中になっていたら…」
箱崎星梨花
「はぐれてしまったんです!!」
周防桃子
「へぇ~、そうなんだ、イベントってことはお姉ちゃん芸能人なの?」
箱崎星梨花
「はい、こんなところで少し恥ずかしいですけど…アイドルをしてます!えへへ♪」
周防桃子
「アイドル…」
周防桃子
その笑顔が輝いていたから、桃子は、その笑顔に目的地を見出しつつあったんだ。
(台詞数: 50)