マージナル
BGM
Snow White
脚本家
mayoi
投稿日時
2015-10-04 15:51:45

脚本家コメント
私たちは何度でも、不器用に別れ続ける。
そうして同じ夢を繰り返すのだ。
単発ものです。

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北沢志保
誘ったのは彼女の方だった。
北沢志保
自然を思いっきり吸い込みたいと言った。
北沢志保
行きたくもないのに従った。森を分け入る私たち。
北沢志保
木々に遮られた空気はしっとりと冷たかった。
北沢志保
彼女は木洩れ日をゆったりと仰ぎ、目を閉じて樹皮の苔をなぞる。
北沢志保
微かな風に葉がざわめく。無数の緑が揺れる。
北沢志保
なびく髪は細かく、しなやかに見える。
北沢志保
私はただ、その光景を眺めていた。
北沢志保
どれだけの時間をそうしていただろう。今となっては分からない。
北沢志保
見つめる私に気付き、彼女はわずかに照れた表情を見せた。
北沢志保
しばらく歩き、ふいに手を引かれる。
北沢志保
訳も分からず駆け出す。うねる大木の根につまずきそうになる。
北沢志保
そんな私を振り返る、彼女の顔から笑みが零れた。
北沢志保
はしゃぐ彼女の背後から48枚目の葉が散る。どうしてそんなものを数えているのだろう。
北沢志保
彼女の手はこんなに冷たかっただろうか。
北沢志保
その手から伝わる力が急速に弱まる。
北沢志保
やがて、ぴたりと足が止まった。
北沢志保
木が切り倒されていた。横たわる幹の太さは遥かな年月を思わせる。
北沢志保
私の腕時計が動き続けている事に気付いた。秒針の音がひどく大きく感じる。
北沢志保
彼女はその幹を見つめている。
北沢志保
まるで荒れた石碑に目を凝らすように。しかし初めからその内容を知っていたように。
北沢志保
小さな背中から放たれる、目に見えぬほどの振動。
箱崎星梨花
──これが、幻覚だったとして。
箱崎星梨花
──あなたは帰りたいと思いますか。
北沢志保
彼女は背中で寂しく笑う。
北沢志保
だが何に対する哀しみだろう。私には分からない。
北沢志保
どれだけ待っても彼女は背を向けたまま動かず、何も喋らなかった。
北沢志保
彼女もまた待っていたのだろうか。私が進むのか、それともここに残るのか。
北沢志保
だとしたら私は、唐突に、理不尽な選択を迫られていたことになる。
北沢志保
しかしこの時の私は不自然にぼんやりとした思考で、老幹を踏み越えた。
北沢志保
何も考えられないまま進んだ。
北沢志保
そこで振り向いておけば、否、それで良かったのかもしれない。
北沢志保
ただ時計の音に急かされるように私は進んだ。
北沢志保
歩を進めるごとに彼女の気配は消え、音は何かに覆い潰されていく。
北沢志保
圧倒的な質量で存在する、何か。
北沢志保
そして視界が開けた時、その正体が分かった。
北沢志保
それは滝だった。
北沢志保
ごうごうと音を立て、不毛な飛沫を立てていた。
北沢志保
岩を打ち、奔流し、気泡を巻き込む。
北沢志保
明らかに過剰なエネルギーを孕みながら、しかしどこか冷静に、それは流れ続けていた。
北沢志保
悠々たる哉天壤、遼々たる哉古今。
北沢志保
この躯は、それらを計るにはあまりに小さい。
北沢志保
急流に身を任せれば私は帰れるのだろう。
北沢志保
だが何かを忘れているような、置き去りにしているような感覚があった。
北沢志保
そうして違和に苛まれ、逡巡する間に。
北沢志保
私は現実へと押し戻されたのだ。

(台詞数: 46)