箱崎星梨花
玄関の前に、白装束に身をまとった女がいる
箱崎星梨花
その女は頭にロウソクを三本立てて・・・
箱崎星梨花
いかにも丑の刻参りに通っているかのような身なりをしている
箱崎星梨花
恨みつらみのこもった、鬼のような形相で玄関の扉を睨みつけている
箱崎星梨花
きっとその女は、扉の先にいる人物に相当な恨みでもあるのだろう
箱崎星梨花
右手には、藁人形と釘ではなく鋭く尖った包丁が握られている
箱崎星梨花
(頼む・・・ドアノブにだけは手をかけないで!)
箱崎星梨花
当然だ、その扉の先には僕が寝ているのだから・・・
箱崎星梨花
もしドアノブにその女の左手が伸びて、部屋に入られようものなら・・・
箱崎星梨花
僕の命はないのだから・・・
箱崎星梨花
そう願うしかない・・・
箱崎星梨花
ギシギシギシギシ・・・ギシギシギシギシ・・・
箱崎星梨花
女からは歯ぎしりのする音が聞こえる
箱崎星梨花
その音は不気味で、不快な不協和音の様だ
箱崎星梨花
そして、その口からは今にも「殺す」や「呪う」などの言葉が出てきそうだ
箱崎星梨花
(やめて・・・聞きたくない、聞きたくない・・・)
箱崎星梨花
耳が塞ぎたくても、塞げない・・・
箱崎星梨花
目を瞑りたくても、瞑れない・・・
箱崎星梨花
その刹那、女がドアノブに手を伸ばす・・・
箱崎星梨花
ガチャッ!
箱崎星梨花
「はっ・・・はぁはぁ・・・また夢・・・」
箱崎星梨花
時計を見ると、指針は3時丁度を指している
箱崎星梨花
寝汗をたくさんかいていたらしく、パジャマは汗でビショビショ・・・
箱崎星梨花
そのせいか、熱帯夜だというのに、いや~な寒さを感じる
箱崎星梨花
Aは、四日後には、夏休みを迎える、大学生
箱崎星梨花
Aは三日前から、連日連夜、同じ内容の夢を見る事に悩まされていた
箱崎星梨花
我慢の出来なくなったAは、その夢の事を、家が神社の友人に相談することにした
箱崎星梨花
「なるほど・・・その女が家にあがってきたら、まずいな・・・」
箱崎星梨花
夢の内容を聞いた友人から、そんな言葉がポロっと漏れる・・・
箱崎星梨花
「こ、怖いこと言わないでよ・・・所詮夢だよね?夢だって言ってくれ・・・」
箱崎星梨花
「あぁ、そうなんだが・・・そうだなぁ・・・A、これをやるよ」
箱崎星梨花
友人はポケットの中から、黒いお守りを取り出すと、Aに差し出す
箱崎星梨花
「これは?」
箱崎星梨花
「うちのお守りだ、まぁ、気休めレベルかもしれないけど・・・」
箱崎星梨花
「お前は持っておいたほうがいい・・・」
箱崎星梨花
友人は、受け取るべきか悩んでいたAの手のひらの中に無理矢理握らせて・・・
箱崎星梨花
「後四日の辛抱だ・・・」
箱崎星梨花
聞こえるか、聞こえないかの声で、友人はボソッと、意味深な言葉を零す
箱崎星梨花
確かに、四日経てば、夏休みに入るが・・・
箱崎星梨花
どうやら友人のニュアンス的には、そういう意味でもなさそうだ・・・
箱崎星梨花
Aにはその言葉の意味を理解する事ができなかったが・・・
箱崎星梨花
友人の雰囲気的にも、これ以上、深く聞くことは出来なかったのだ・・・
箱崎星梨花
いや、聞くのが怖い、と言ったほうが正しいだろうか・・・
箱崎星梨花
その時はまだ、友人の「後四日」という言葉の意味を理解することになるとは・・・
箱崎星梨花
思いもしなかったのだから・・・
箱崎星梨花
<つづく>
(台詞数: 46)