箱崎星梨花
Bはどこにでもいるような田舎の中学生
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しかし職人家庭の長男だったBには、常に後継者としてのプレッシャーが付きまとい
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普通の中学生が謳歌をしているような青春の日々からは切り離されいた
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Bは物心付くと、すぐ職人である父の仕事を手伝わされはじめ・・・
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中学生に上がってからも、勿論部活動の参加など許されはずもなく
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放課後、自宅にある工場まで直帰し、後継者としての修行を積んでいた
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そんなBに自由などあるはずもなく、Bはそんな日々に嫌気がさしていた
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Bが反抗期を迎えていた事は間違いないが、職人である父に歯向かう度胸があるはずもなく
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そんなBの親に対する唯一の犯行は、親の目を盗んでネットサーフィンをする事だった
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ある日、Bはいつものようにネットをしていると、『縁切りハサミ』というページを見つけてしまう
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『縁切りハサミとは、嫌な事、嫌な人との縁を切ることのできる、誰にでもできるおまじないです』
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現実逃避をしたかったBは、その説明文に心を奪われ、方法を調べることにした
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やり方は極めて簡単だった、用意するものは、ハサミと紙と人形だけ
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まず、縁を切りたいモノの事を紙に書き、それを人形のお腹に乗せる
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それから、その人形のお腹と一緒に紙をハサミで切るだけらしい
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「これだ!」と思ったBは直様、その計画を立てた
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そしてBはその計画を父の目が遠ざかる、花火大会当日に実行することにしたのだった
箱崎星梨花
当日の夜、B以外誰もいない工場、窓からは傘を開いた時みたいな花火が・・・
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バーン!バーン!と音を立てて、絶え間なく打ち上がっている
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時計を見ると、時間は19:24、もうすぐ半になろうというところか・・・
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花火大会は20:00には終わり、そうなると父も戻ってきてしまう
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それまでにおまじないを終わらせる必要があったBは早速、その計画を実行に移した
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Bは工場にあったドラム缶の蓋の上に、無表情な人形と縁切りハサミとして使う鋏を置く
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人形のお腹の上には、切りたいものが書かれた紙がしっかりと貼られている
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Bはハサミを手に取ると、ゆっくりと人形のお腹に向けてハサミを近づけていく
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手が震えて、中々切ることができない、その間も花火は音を立てて空に打ち上げられている
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Bは一度、ハサミをドラム缶の蓋の上に置くと、ズボンの中に手を伸ばした
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モゾモゾとズボンを漁ると、チャリンチャリンと小銭入れにしまったが・・・
箱崎星梨花
目的はそれじゃない
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「あっ、あった」
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ズボンの、小銭入れより更に奥に押し込まれていた携帯を手に取ると・・・
箱崎星梨花
大して登録されていない電話帳を開き、『父』にダイヤルをかける・・・
箱崎星梨花
Bは、それから携帯を左手に持ち替えて、耳に押し当てると、右手には縁切りハサミを持った
箱崎星梨花
「プルルル...プルルル」
箱崎星梨花
父は電話に出ない
箱崎星梨花
仮に出たとしても、一体何を言うというのか・・・
箱崎星梨花
ただ、これがBが思いついた、唯一の反抗だったのだろう
箱崎星梨花
「プルルル・・・プルルル・・・ガチャッ」
箱崎星梨花
「おかけになった電話番号は現在電話に出ることができません」
箱崎星梨花
「ピーと音が鳴ってから、伝言を言ってください」
箱崎星梨花
父が出たかと思い、Bはドキッとしたが、留守番電話に繋がる
箱崎星梨花
「ピー」
箱崎星梨花
無機質な機械音が鳴ると共に、Bは覚悟を決めた
箱崎星梨花
俺、父さんの期待通りの息子にはなれそうにないよ・・・」
箱崎星梨花
Bの瞳からは一筋の雫がしたたっていた・・・
箱崎星梨花
「ごめんなさい・・・さようなら・・・」
箱崎星梨花
「ブチッ・・・」
箱崎星梨花
工場に戻ったBの父が、お腹の切り裂かれた人形と、紙を見つけたことは言うまでもない
箱崎星梨花
紙には『現実』と書かれていた
箱崎星梨花
Bは現実との縁を切って、異世界にでも旅立ってしまったとでもいうのでしょうか?
(台詞数: 50)