箱崎星梨花
S保は絵本が大好きな小学校中学年の女の子だ
箱崎星梨花
図書室や、帰り道の図書館で新しい絵本を見つけては借り、それを家に持ち帰っては・・・
箱崎星梨花
「ばあば、これ読んで~!」
箱崎星梨花
家にいるお婆さんに、いつも、そんな風に甘えていた
箱崎星梨花
両親は共働きで夜遅くまで帰ってこない日が多く
箱崎星梨花
S保にとってお婆さんは、帰宅してから唯一甘える事のできる心の拠り所だったのだろう
箱崎星梨花
必然的にS保はお婆ちゃん子になっていたそうだ
箱崎星梨花
お婆さんもそんな可愛い孫娘を可愛がり、毎日の様に喜んで絵本を読み聞かせていた
箱崎星梨花
だがしかし、そんなお婆さんでも、歳と病魔に勝てるはずもなく
箱崎星梨花
一度重い病気にかかると、お婆さんはあっさりと亡くなってしまった
箱崎星梨花
死の間際、一度意識を取り戻したお婆さんとS保はこんな約束を交わしていた
箱崎星梨花
「ばあばがいなくなったら寂しいよ!」
箱崎星梨花
「よしんば、ばあばが死んじゃっても、S保はお別れしたくない!」
箱崎星梨花
「また絵本読んで!!?」
箱崎星梨花
「そうだねぇ・・・そんじゃあ、S保が寂しくならん様に・・・」
箱崎星梨花
「迎えに・・・来るでねぇ・・・」
箱崎星梨花
虫の息の中、お婆さんは絞り出すようにそう言うと、そのまま安らかに眠ったそうだ・・・
箱崎星梨花
心の拠り所を失ったS保は深く悲しんだ
箱崎星梨花
それから暫くたったある日___
箱崎星梨花
そんなS保の心境とは逆に、身体はお婆さんのいない日々に慣れつつあった
箱崎星梨花
代わり映えのない帰り道、お婆さんが亡くなる前は絵本を持っては駆けていた
箱崎星梨花
そんな楽しみな帰り道も、もうなくなったのだと思い知らされる
箱崎星梨花
S保はそんな帰り道を歩いていると、ゴミ捨て場に捨てられている絵本を見つけた
箱崎星梨花
どうやらS保がまだ読んだことのない絵本だったのらしく、気になってゴミ捨て場に駆け寄っていく
箱崎星梨花
『かえりみち』
箱崎星梨花
「S保と同じ・・・」
箱崎星梨花
絵本のタイトルを見たS保は興味がかき立てられ、なんとその絵本を持ち帰ってしまったのだ
箱崎星梨花
S保は家に着くなり、自分の部屋に行き、その絵本を机の上に置いた
箱崎星梨花
お母さんが帰ってきてから読み聞かせてもらおうと思ったS保は、一旦絵本を放置したが・・・
箱崎星梨花
『今日も遅くなります、冷蔵庫に入っているおかずを温めて食べてください』
箱崎星梨花
居間に母の字でそう書かれた紙を見つけたS保は我慢できなくなり・・・
箱崎星梨花
自分の部屋に戻り、その絵本を開いてしまうのだった
箱崎星梨花
そこには見覚えのあるゴミ捨て場が描かれている、それはさっき絵本を拾った場所だ
箱崎星梨花
そして『今から、迎えに行きます』とだけ書かれている
箱崎星梨花
次のページを捲ると、そこには見覚えのある図書館が描かれていた
箱崎星梨花
それが帰り道にある図書館だということに、S保は一目で気付いた
箱崎星梨花
次のページは見覚えのある空き地
箱崎星梨花
そして次はさっき通ったばかりの曲がり角・・・
箱崎星梨花
「もしかして・・・S保の家に・・・向かってきてるのかな?」
箱崎星梨花
次のページには予想通り、S保の家の玄関が描かれていた
箱崎星梨花
絵をよく見ると、手がインターフォンの上に置かれている
箱崎星梨花
「ピンポーン」
箱崎星梨花
無機質な呼び出しのチャイムがその直後に鳴り、同時にS保の身体はビクッと仰け反る
箱崎星梨花
普通ならここで失神してもおかしくないのだが、S保は違った
箱崎星梨花
恐怖より、この後どうなるのか、という好奇心が勝っていたのだ
箱崎星梨花
それが間違いだとも気付かずに・・・
箱崎星梨花
好奇心に導かれるがまま、次のページを勢い良く捲る・・・
箱崎星梨花
そこには机に向かって座り無邪気に絵本を覗いているS保の後ろ姿が描かれていたのだ
箱崎星梨花
「ムカエニキタヨ」
箱崎星梨花
その日は丁度、お婆さんが亡くなってから、四十九日だったそうだ・・・
(台詞数: 50)