箱崎星梨花
『ただいま』
箱崎星梨花
私が家に帰ると、娘が瞳を潤ませながら玄関で待っていた
箱崎星梨花
『どうしたんだい?』
箱崎星梨花
そう尋ねると、娘は申し訳なさそうに口を開いた
箱崎星梨花
「あのね、えっと」
箱崎星梨花
「これ…」
箱崎星梨花
モジモジと後ろに組んでいた腕を前に出すと、手には可愛らしい便箋に包まれた手紙が
箱崎星梨花
「その、昨日はお仕事で遅くなっちゃって、パパも遅くて、それで…」
箱崎星梨花
「だから、プレゼントも、なんにも渡せなくて…」
箱崎星梨花
泣き出す娘
箱崎星梨花
私も、仕事を優先してしまった節がある
箱崎星梨花
そもそも、昨日が何の日だったか、それすら思い出せない
箱崎星梨花
結婚記念日は娘には関係ないし、誕生日でもなかった気がする
箱崎星梨花
考えていると、泣き止んだ娘が口を開いた
箱崎星梨花
「で、でも!今日はプレゼントがあるの!」
箱崎星梨花
「早く来て!」
箱崎星梨花
急いで靴を脱ぎ、娘に手を引かれる
箱崎星梨花
プレゼント…?
箱崎星梨花
「パパ、父の日、おめでとう!」
箱崎星梨花
リビングには、料理が並べられていた
箱崎星梨花
サラダやスープ、パン、いつもより、どこか華やかな、暖かい気がした
箱崎星梨花
そして、私の席に置かれた、大きな、歪な形のハンバーグ
箱崎星梨花
「これ、私がお手伝いして作ったの」
箱崎星梨花
「あんまりうまくできなかったけど…」
箱崎星梨花
「でも、ママが一生懸命作ったら気持ちがこもってもっと美味しくなるって!」
箱崎星梨花
「だから、いつもありがとうって、気持ちをこめました」
箱崎星梨花
「パパ、いつもありがとう!」
箱崎星梨花
……そうだった
箱崎星梨花
昨日は、父の日か
箱崎星梨花
すっかり忘れていた
箱崎星梨花
思わず涙が出そうになるのをこらえて、娘に近づき、思いっきり抱きしめた
箱崎星梨花
『星梨花、ありがとう』
箱崎星梨花
……年をとると、少し涙もろくなる
箱崎星梨花
暖かな気持ち、温かいご馳走、あたたかい家族
箱崎星梨花
私は幸せものだ
箱崎星梨花
今日だから感じることのできた、この気持ちを
箱崎星梨花
私は、ずっと忘れないだろう
箱崎星梨花
手紙を日記に挟み、今日を振り返る
箱崎星梨花
ありがとう
(台詞数: 39)