周防桃子
貴音さんがしていたことを、思い出してみる。
周防桃子
桃子がこれまで勝ってきたのは、貴音さんが対戦相手のことを調べて、作戦を立ててくれたから。
周防桃子
だったら、まず必要なのは、情報…!
周防桃子
そのためには、美希さんをよく知っている人に会わなくちゃいけない。
周防桃子
何人か頭に浮かんだ人の中から桃子が選んだのは。
如月千早
「…そう。そんなことがあったのね…。」
周防桃子
一回戦で美希さんと互角の勝負をした、千早さんだった。
周防桃子
協力してもらうわけだから、桃子が知っているすべてのことを、千早さんには話してある。
如月千早
「四条さんはいつも冷静沈着に見えるけど、意外に思いつめるタイプだから…。」
如月千早
「…桃子には悪いけど、私の話はあまり役に立たないかもしれないわよ?」
周防桃子
「うん。それでもいい。だから、桃子に教えて。」
周防桃子
「一回戦で美希さんと対戦したとき、何を考えて何を感じていたのか。」
周防桃子
「そこから、桃子が自分に足りないものを拾っていくから。」
周防桃子
負けたとはいえ、千早さんは美希さんと、とんでもなくすごい勝負をしてみせた。
周防桃子
千早さんの話の中には、きっと美希さんに勝つためのカギとなるものがある。
如月千早
「…言葉にするには難しいけど。」
周防桃子
考えながら、千早さんがぽつりぽつりと話し始めた。
如月千早
「あの時は、勝ち負けなんて頭に無かったわね。」
如月千早
「美希が全力で向かってくることだけは間違いなくて。自分にできることを考えて…。」
如月千早
「やっぱり、自分のすべてを歌に込めるしかないって。」
周防桃子
そう言った千早さんの目は、美希さんの挑戦的な視線を受け止めたあの時の、揺るがない目だった。
如月千早
「それで集中力が高まったのね。今までにない、ベストを超える力が出せたわ。」
周防桃子
たしかに、あの時の千早さんは、普段よりすごかった。でも、それに勝った美希さんは…。
如月千早
「きっと…いいえ、間違いなく、美希も私と同じ状態だったのだと思うわ。」
如月千早
「私程度が言っていい事かはわからないけど、ここぞという時に、たまにあるのよ。」
如月千早
「感覚が鋭くなって、普段は自覚してない事も、場の空気も、はっきりと感じ取れるような…。」
如月千早
「…そうね。『境地』みたいなものが。」
周防桃子
…境地。なんか急にすごい話になってきたけど。
周防桃子
「…それは、美希さんや千早さんだけにできること?」
如月千早
「いいえ。多分そうだって私が感じた人数なら、シアター組も含めてかなりの数にはなるわね。」
如月千早
「…ただ、それを自分でコントロールして引き出せる人は、ほとんどいないと思うわ。」
周防桃子
「えっと…今、ほとんどって言ったよね?」
如月千早
「ええ。美希は、100%ではないかもしれないけど、コントロールできるわ。」
周防桃子
美希さんは、と言ったけど。きっと、千早さんにも同じくらいにはできるのだろう。
周防桃子
情報でどうにかなるレベルじゃない。手を伸ばしても、さらにその上を行ってしまう天才なんだ。
如月千早
「…そんな顔しないで。」
周防桃子
桃子がよっぽどひどい顔をしていたのか、千早さんが優しく声をかけてきた。
如月千早
「私がそう感じた人の中には、桃子、あなたも含まれているのよ?」
周防桃子
「えっ!?桃子が…?」
如月千早
「準決勝の春香との対戦。あの時に、入り口とはいえ、『そこ』に足を踏み込んでいたわ。」
周防桃子
…確かに、あの時は集中できたし、調子も良かったと思ったけど…。
如月千早
「結局は自分の力を引き出せるかどうか、よ。」
如月千早
「それができれば、桃子だって間違いなく、美希と互角に渡り合える。」
如月千早
「だから、まずは四条さんのこともそうだけど、自分の気持ちに整理をつけなさい。」
如月千早
「中途半端に色々考えていると…勝負すらできないわよ。」
周防桃子
「…わかった。ありがとう、千早さん。」
周防桃子
情報と言えるものは手に入らなかったけど、千早さんの話を聞けて、それだけでも良かった。
周防桃子
まず、桃子は自分を見つめなおす必要がある。自分に何ができるのか。何をしたいのか。
周防桃子
どんな気持ちで美希さんとの対決に向かい、どんな姿を貴音さんに見てもらうのか。
周防桃子
…今日は、長い夜になりそう。ふと、そう思った。
(台詞数: 50)