如月千早
ピピッ……パシャッ!
如月千早
……これもダメね。全体的にもやがかかっている気がするわ。
如月千早
ピントを合わせるには、ちょっとだけシャッターを押せばいいのよね。
如月千早
よし、今度こそ
高山紗代子
千早ちゃん?
如月千早
きゃっ!?ピピッカシャッ
高山紗代子
ご、ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだけど。
如月千早
いえ、写真に集中していた私も、私だから。
高山紗代子
撮っていたのは……アジサイ?
如月千早
ええ、でも……またピントがずれてしまったわ。
如月千早
高山さんは、機械は得意だったりするの?
高山紗代子
機械というか、カメラなら人並みに使えると思うけど。
如月千早
だったら、教えてもらえないかしら。さっきから上手く撮れなくて。
高山紗代子
ピント調節の仕方ね。えーっと、あ、千早ちゃんは手動でピントを合わせるんだ。
如月千早
手動で?ピントって普通そういうものじゃないかしら?
高山紗代子
オートフォーカスって言ってね、自動的にピントを合わせてくれる機能があるんだよ。
高山紗代子
ほら、こうやって……ピピッカシャッ ね?
如月千早
本当ね。最近のカメラってこういう機能もついているのね。もっと勉強しないとダメね。
高山紗代子
最近というか……でも、やっぱり千早ちゃんは真面目だよね。歌以外にも。
如月千早
そうかしら。ただ、やるからには一生懸命やりたいだけなんだけど
如月千早
高山さんだって、いつも一生懸命じゃない。歌のレッスンも気合が入っているみたいだし
高山紗代子
そうだね。もっと歌の仕事を増やしたいから。千早ちゃんから見て、私の歌はどうかな
如月千早
そうね……高音の響きはとてもいいわ。高山さんの優しさと強さが伝わってくる。
如月千早
ただ……最近は、なんというか強さが前に出過ぎている気がする
如月千早
上手くなりたいという気持ちが前に出過ぎているんじゃないのかしら。
高山紗代子
そっか……確かに最近、心に余裕がなかったかも。変わりたいって気持ちが強すぎて
如月千早
変わろうという気持ちは悪いことじゃないと思う。でも、自分の良さを生かすことも大事。
高山紗代子
そうだね。うん、ありがとう、千早ちゃん。
如月千早
どういたしまして。でも、私だってこういう考えを持てるようになったのは最近だから。
高山紗代子
こういう考えって?
如月千早
余裕を持つってことかしら。写真を撮るようになって、歌以外のものに目を向けられるようになって
如月千早
それで、歌の幅が広がって。一生懸命頑張るだけじゃ、見えないものがあるって気づけたから。
高山紗代子
余裕、か。……ねぇ、千早ちゃん、私も写真撮っていいかな。
如月千早
写真って……私のこのカメラで?
高山紗代子
うん。何か私にも掴めるかもって思えたから。
如月千早
いいわよ。
高山紗代子
それじゃあ……ピピッパシャッ
如月千早
えっ?ちょ、ちょっと
高山紗代子
ふふ、驚いた顔の千早ちゃんもかわいいね。
如月千早
高山さんったら、春香みたいなこと言わないでよ。
高山紗代子
嘘じゃないよ。ほら、見て?あれ、この写真……
如月千早
さっき高山さんに声をかけられた時の写真ね。ピントがずれてアジサイがぼやけてしまっているわ。
高山紗代子
ううん、そうだけど、この写真、上手く撮れてる。ほら、奥の方を見て。
如月千早
あ、アマガエル……しかも、ピントがばっちりあってる。
高山紗代子
ふふふ、これってもしかしたら頑張っている千早ちゃんへの、神様からの贈り物なのかもね
如月千早
(……私が気付かなかったアマガエルを高山さんは一目で気づいた)
如月千早
(アジサイを取ることに夢中だった私には、まだ余裕が足りないのかもしれない)
如月千早
(お互い、まだまだ成長できるってことかしらね)
如月千早
(そうだ、今度、野々原さんの写真を撮ってみようかしら。いつも撮って撮ってとせがんでくるし)
如月千早
(きっと松田さんも入るから、賑やかな撮影になりそうだけど、それはまた別のお話)
(台詞数: 50)