永吉昴
デビューを成功に収め、フィールド・マダー一座の名は、ますます知れ渡るようになった。
永吉昴
そしてオレはと言うと、『小さき妖精』という異名がつくほどの人気者になっていた。
永吉昴
……今思い出すと、結構 恥ずかしい異名だな。
永吉昴
フィールド・マダー一座は近隣だけでなく、遠い大都市にまで呼ばれる程の人気一座に。
永吉昴
休みは殆どなかったけど、旅行気分で飽きや疲れは感じなかったな。
永吉昴
そんな生活を5年続けてきて、オレの中にある気持ちが芽生えたんだ。
永吉昴
自分の芸を、もっともっとたくさんの人に見てもらいたい。
永吉昴
もっともっとたくさんの人を笑顔にしたい。
永吉昴
………旅芸人一座は町や都市を回るけど、見てもらえる範囲には限界がある、って……。
永吉昴
……………
永吉昴
「座長さん、います?」
野々原茜
「すばるん、どったの?」
野々原茜
「いや~今日のキミのジャグリング、お見事だったよ~♪また腕を上げたんじゃない?」
永吉昴
「ありがとう!今日は調子よかったからさ、いつもより高く投げようって思ったんだ」
野々原茜
「すばるんの挑戦し続ける気持ち、アカネちゃんも見習わないといけないねぇ」
野々原茜
「んで、なにか話たいことがあるのかな~?」
永吉昴
「う、うん。実はオレ………、」
永吉昴
「ここを抜けようと思ってさ」
野々原茜
「…………へっ?」
野々原茜
「なんでさー!?アカネちゃん、すばるんに酷いことしてないよね?」
野々原茜
「なんか、不満なことでもあったのかい?」
永吉昴
「いや、座長さんにはお世話になってるし、もちろん団員の人にも仲良くしてもらってる」
永吉昴
「オレ、もっとたくさんの人に自分の芸を見てもらいたい」
永吉昴
「町や都市だけでなく、小さな村や集落にも行って、みんなを笑顔にしたいんだ!」
永吉昴
「だからその、オレ1人のワガママに、みんなを迷惑かけたくなくってさ……」
野々原茜
「…………」
野々原茜
「なるほど。すばるん気持ちは よ~くわかった!」
野々原茜
「自由に行って来るといいよ♪」
永吉昴
「ッ!いいのか!?」
野々原茜
「人気道化師を手放すのは、ひじょ~に残念だけど、本人の意思を尊重したいからね~」
野々原茜
「あ、そうだ、これを持って行くといい」
永吉昴
「この小袋は……、中にお金が」
野々原茜
「今まで働いてくれたお礼だよ。これからは自分1人でなんとかしないといけない」
野々原茜
「そのためには、お金が必要っしょ?好きに使いたまえ~」
野々原茜
「あと、芸は毎日磨いておくんだよ。まっ、すばるんにそんな心配しなくていいかな」
永吉昴
「座長さん、ありがとう!」
永吉昴
「オレ、もっともっとジャグリング上手くなって、みんなを笑顔にしてくるよ!」
野々原茜
「うむうむ。良い噂で、すばるんの名前が聞けることを祈ってるよ♪」
永吉昴
「それでさ、座長さん。」
野々原茜
「なにかな?」
永吉昴
「……オレの服を掴んでる手、そろそろ離してくれないかな」
永吉昴
こうして、オレはフィールド・マダー一座から離れた。
永吉昴
1人になったオレは、まず周辺の村や集落を回った。
永吉昴
行く先で、ジャグリングを見せては、驚きと喜びの歓声、そして拍手をいただいた。
永吉昴
お代は お金ではなく、少しの作物や料理をいただいた。
永吉昴
そういう小さな事を3年間、少しづつ積み重ねを続け、名を上げていったんだ。
野々原茜
『シーン6に続く』
(台詞数: 47)