女子、三日会わざれば⑥『共鳴』
BGM
FAKE SELF×TRUE SELF
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2016-05-23 23:23:53

脚本家コメント
次回、キーパーソン登場。平日は流石に今までのペースは無理だと思いますので、しばしお待ちを。

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周防桃子
まだ歓声のおさまらない中、千早さんに代わって、今度は美希さんがステージに登った。
周防桃子
マイクを持って、まずは歌う前のMC。何を言うかと思って注目していたら。
星井美希
「みんな、千早さんの歌すごかったね。ミキ、ますます尊敬しちゃったの!」
周防桃子
…これからその千早さんをこえなければならないのに、美希さんは本当にマイペース。
周防桃子
でも、すぐにその顔は…見た人がハッとするような笑顔に変わった。
星井美希
「でもね…ミキは、もっとすごいよ!」
周防桃子
…美希さん、笑えるんだ。こんな、こんな場面で。
周防桃子
言葉が終わると同時に、イントロが流れ出した。
周防桃子
これは…『FAKE SELF×TRUE SELF』!?
星井美希
『届きたい 届かない… いつも傍にいたいよ 掴みかけた未来は幻?』
周防桃子
いつの間にかふせていた顔が上げられたとき、その顔は笑顔ではなくなっていた。
周防桃子
はかなげで、さびしげで、切なげで、ゆれ動く。それでも、ただ一つたしかなものを胸に。
星井美希
『水鏡に映った もう一人の自分が 問いかける唇は 哀しく呟く』
周防桃子
キレのあるダンス。その動き、表情の一つ一つが意味をもって、こちらに語りかけてくる。
周防桃子
かざした手が、あなたに触れたいと。背中が、さびしいと。ゆれ動く肩が、おさえきれない想いを。
周防桃子
…すごい。美希さんも、千早さんに負けないぐらいすごい!
周防桃子
千早さんは、遠くにいてもわかるくらいに、自分の存在感を押し出してきた。
周防桃子
でも、美希さんは逆に、人を近くに引き寄せてくる!
周防桃子
あなたの目の前にいる女の子、一途だけど臆病で、素直じゃない、私を見てよ、と。
星井美希
『あとどれくらい 好きになってくの? 降り積もってく雪の様に』
星井美希
『成長してく想いが 新しい私を創る』
周防桃子
…ふと、歌の途中で桃子は気付いた。
周防桃子
これは、ただ美希さんが自分の歌を歌ってるだけじゃない。
周防桃子
歌で自分を表現する…言うのはかんたんだけど、この二人は。
周防桃子
ライブバトルという戦いの場で、同じ「私」というテーマで、それぞれちがう「私」を見せて。
周防桃子
そして、観客もまきこんで、二人の「私」と向かい合うストーリーにしてしまった。
如月千早
(私を見てください!)
星井美希
(ミキを見て!)
周防桃子
まるで、二人の声が、聞こえてくるみたい。
周防桃子
これは、いっしょに歌わない二重奏。そして観客を出演者にして奏でられる、1つのステージ。
星井美希
『強く奪って 抱きしめてほしい 夢の中でだけ言えても』
星井美希
『膨らんでゆく想いが 決めてた 答えを壊すの』
周防桃子
…どうして、こんなことができるの?
周防桃子
お互いに対する信頼?つみ重ねてきた経験?誰にも負けないっていう自信?
周防桃子
…それとも、生まれつきの感性?
周防桃子
ただひとつ確かなのは、自分が同じレベルにが立っていないということだけ。
周防桃子
感動にふるえながら、桃子はどうしようもない敗北感に包まれていた。
星井美希
『届かない… 届きたい いつも傍にいたいよ 願ってる 揺るぎない 明日を…』
周防桃子
…歌が終わった。
周防桃子
そして、千早さんに勝るとも劣らない、観客の拍手と歓声。
周防桃子
でも、それは長くは続かず、すぐにおさまった。きっとみんな、次にやることを思い出して。
周防桃子
これから、200人の観客は手に持ったボタンを押して、勝者を決めなくちゃならない。
周防桃子
…桃子は、どっちの勝ちとかは決められなかった。たぶん、観客にもそういう人は多いと思う。
周防桃子
…スクリーンに投票の結果が映し出された。如月千早、48票。星井美希、51票。
周防桃子
たくさんの引き分けをはさんだうえでのわずかな差で、美希さんの勝ちだった。
星井美希
『…ありがとう、千早さん。』
如月千早
『ううん、こちらこそ。美希、楽しかったわ。』
周防桃子
ステージ上で、充実した表情で言葉を交わす二人は、なにより輝いて見えた。
周防桃子
感動的な場面に、観客はおしみない拍手と歓声を送る。いつまでも、とぎれることなく。
周防桃子
その輝きを背景に桃子はひとり、ちっぽけだった。

(台詞数: 50)