周防桃子
ふと、桃子の後ろに、気配を感じた。
周防桃子
ううん、気配じゃない。これは…存在感だ。
周防桃子
後ろをふり向くと、今まで姿の見えなかった美希さんが、いつの間にかそこに立っている。
星井美希
「…。」
周防桃子
美希さんが見ているのは…その目線の先に立つのは、千早さん。
周防桃子
そして千早さんも、美希さんの視線を受け止め、じっと見返していた。
周防桃子
二人とも、一言もしゃべらない。
周防桃子
でも、近くで見ている桃子にはわかる。二人の間にはいくつもの言葉が飛びかってるって。
周防桃子
美希さんの目はきらきらと輝いて、口元にはかすかな笑い。いつもの気だるそうな感じはない。
周防桃子
面白そうな。待ち望んでいたような。今までの日々の退屈からぬけ出したような。
星井美希
「…。」
周防桃子
…この人がこんな顔をするなんて、知らなかった。
周防桃子
そして千早さんも。表情はそれほど変わらないけど、その目はまるで静かな炎のようで。
如月千早
「…。」
周防桃子
美希さんの挑戦を正面から受け止めて、まったくおじけることのない、強い目だった。
周防桃子
火花が散るような、意志と意志のぶつかり合い。
周防桃子
いつの間にか、桃子は二人の視線をさけるように、二、三歩横に歩き、その場所をよけていた。
周防桃子
はじかれた。ううん、二人の迫力に、自分からさがってしまった。
周防桃子
…悔しい。
周防桃子
この場にいるだれもが思っただろう。この戦いの主役は、この二人だって。
周防桃子
桃子はただの出場者ってだけで、脇役としてしか見られていない。
周防桃子
二人の間に入れない。割って入ろうとしても、きっと二人の眼中には入らない。
周防桃子
…いいよ。桃子の実力が足りないのが悪いんだよね?
周防桃子
だったら、勝ち続ける。そして、いやでも目に入るようにしてあげる。
周防桃子
「第一回戦は明後日から毎日1試合ずつ行う。」
周防桃子
必要なことだけを聞くと、桃子はだれかが呼び止めるのにも耳をかさず、会議室を出て行った。
周防桃子
レッスンしよう。負けないように。美希さんにも、千早さんにも、その他のだれにも。
周防桃子
…今のこの気もちをどうにかするには、それしかないと思った。
(台詞数: 28)