透明なプロローグ
BGM
透明なプロローグ
脚本家
親衛隊
投稿日時
2017-05-15 00:13:03

脚本家コメント
きっとこのページは
ハッピーエンドにつながっているね

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七尾百合子
立ち入り禁止の札が掛けられたらロープを乗り越え、薄暗い階段を上がりきった、その先。
七尾百合子
現れたドアを前にして立ち止まり、一旦振り返る。
七尾百合子
「……よし」
七尾百合子
誰も見ていないことを確認した私は、ドアに付いた鍵を回し、それを開け放った。
七尾百合子
屋上には澄んだ青空が広がっている。
七尾百合子
音を立てないようドアを閉め、階段室の裏に回り込む。ここが校舎から死角になっているからだ。
七尾百合子
「ふぅ……」
七尾百合子
ようやく一息。
七尾百合子
休日とはいえ学校は無人ではない。ここに来るのにもそれなりに神経を使う。
七尾百合子
何の為に──と誰かに問われれば、「只の自己満足です!」と胸を張って答えるだろう。
七尾百合子
今はそれくらい高揚している。
七尾百合子
時刻はお昼時。
七尾百合子
肩に掛けていた鞄を地面に置き、壁にもたれ座る。
七尾百合子
「はぁ」
七尾百合子
ようやく窮屈な校内から解放されたと、安堵の溜め息。
七尾百合子
補習なんて受けなくたってテストで良い点を取ればいいじゃないかと思い始めた今日この頃。
七尾百合子
だが、現実は自分の思い通りになるほど上手くはできていないものだ。
七尾百合子
「若くしてお婆ちゃんになりそうだよ……」
七尾百合子
愚痴を漏らしつつ、鞄からコンビニで買ったパンと飲料を取り出す。
七尾百合子
パサパサして美味しくなかったが、無理やり飲み込んだ。
七尾百合子
「ごちそうさま。さて、と」
七尾百合子
先にも言ったように、ここに来たのは只の自己満足だ。
七尾百合子
しかし、全く理由がないわけでもない。
七尾百合子
「んふふふー」
七尾百合子
うきうきで鞄の内ポケットから取り出したのは、布のカバーを掛けた文庫本。
七尾百合子
絶版状態になっていて軽く絶望していたのだが、先日ようやくネット通販で入手した物だ。
七尾百合子
「んふふふー」
七尾百合子
空に向けて本を掲げる。今の私はとてつもなく気持ち悪い表情をしているのだろう。
七尾百合子
だが構わない。何故ならここは屋上だから。
七尾百合子
休日の! 学校の! 屋上だから!
七尾百合子
嗚呼、この高揚感にいつまでも溺れていたい……が、悲しきかな時間は有限。
七尾百合子
もたもたしていると最悪の展開に成りかねないので努めて冷静に本を開く。
七尾百合子
「……凄い……凄いよ……! 導入から既にクライマックスだよ……!」
七尾百合子
次のページに差し掛かろうとした瞬間──夢からの離別を告げるチャイムが鳴ってしまう。
七尾百合子
「ああぁ……」
七尾百合子
およそ1時間前よりも深く、深く、嘆きに近い溜め息をついた。
七尾百合子
のろのろと本を鞄に仕舞い、スカートに付いた埃を払って、階段室へと向かう。
七尾百合子
「あたっ」
七尾百合子
俯いて歩いたおかげで何かにぶつかってしまった。
七尾百合子
こんな、休日の学校の屋上で。
七尾百合子
見れば、何やら女の子が尻餅をついている。
望月杏奈
「……」
七尾百合子
私は、この子をよく知っている。
七尾百合子
彼女は有名人で、学校中のアイドル的存在なのだから。
七尾百合子
地味な私とはまるで釣り合わない高嶺の花──。
七尾百合子
「ご、ごめんね? 大丈夫?」
七尾百合子
その子に向かって今、こんな私が手を差し出している。
望月杏奈
「ん……大丈夫……」
七尾百合子
多分、これが始まりだったと思う。
七尾百合子
この瞬間から、私の日常はゆっくりと時間をかけて逸脱していくのだった。

(台詞数: 50)