七尾百合子
あの出来事から一日経って、いま、私は事務所のドアノブに手を掛けようとしています。
七尾百合子
結局、何かしてあげられることがないか、一晩中考えたけれど、何も浮かばないまま…
七尾百合子
ただ悪戯に、モヤモヤした気持ちを引き摺ったまま、今日を迎えました。
七尾百合子
「おはようございます!…ガチャ‼」
七尾百合子
勢い良く扉を開けると、そこには…
ロコ
「おー…」
七尾百合子
口を大きく開いて、目を大きく見開いて、言葉にならないような声を発するロコちゃんがいました。
七尾百合子
(なに…これ?)
七尾百合子
私とロコちゃんの目の前には、歪な形をした、本当にアートと呼んでもいいのかわからないような…
七尾百合子
すごくヘンテコな謎のアート作品が聳え立っていました。
七尾百合子
(まさかだけど…ロコちゃんの作品なわけ…ないですよね)
ロコ
「ユリコ、違いますよ」
七尾百合子
「あっ、私の心の声、バレていました?」
ロコ
「はい、ユリコのフェイスに出ています」
二階堂千鶴
「ふふふ…おーっほっほ…ゲホゴホッ」
七尾百合子
声のする方に視線を移す。謎のアート作品の隣。そこには堂々と立ち振る舞う千鶴さんの姿が…
七尾百合子
「まさかですけど…」
ロコ
「チヅル…これは!!」
二階堂千鶴
「ええ、わたくしの作品ですわよ」
七尾百合子
「斬新ですね…」
ロコ
「クラムジーです…」
二階堂千鶴
「まったくコロちゃんは失礼な事を言いますわね…じっくりとわたしくの作品を見てから…」
ロコ
「でも…」
二階堂千鶴
「でも…?」
七尾百合子
私には芸術の事なんて、よくわからないですけど…それでも、なんとなくわかりました。
七尾百合子
私達の目の前にある、真心の込められた作品を目の当たりにして…
ロコ
「ハートウォーミングです!」
七尾百合子
この作品を見ていると、千鶴さんがこれを懸命に創作している姿が連想できちゃいます。
七尾百合子
それから…私の目頭が少し熱くなってきているのがわかります。
七尾百合子
これこそまさにチヅアートですね。
ロコ
「チヅル、読み取れましたよ…」
七尾百合子
うん。ちゃんと見れば私にもわかります。これはロコアートへの千鶴さんなりのアンサー。
ロコ
「テーマはパワフルな絆…そうですね?」
二階堂千鶴
「ええ、その通りですわ」
ロコ
「そっか…よかった」
二階堂千鶴
「一体何がよかったですの?」
ロコ
「やっぱりチヅルはロコのソウルメイトです」
二階堂千鶴
「コロちゃん…」
ロコ
「だけど…こんな心憎いサプライズをするチヅルなんて…やっぱり大嫌いです~!」
七尾百合子
嘘つき、大好きな癖に…
二階堂千鶴
「ロコ、わたくしの胸にいらっしゃい、わたくしは全てを受け入れますわよ」
二階堂千鶴
「あなたの想いも、あなたの嫉妬も、あなたの素直で純粋な心も…」
二階堂千鶴
「全て」
七尾百合子
ロコちゃんは、千鶴さんの言葉を聞いてから、赤く染まった顔の涙を拭います。
七尾百合子
それからそのまま千鶴さんの胸へとダイブしました。
七尾百合子
千鶴さんはそんなロコちゃんの身体を受け入れて、包み込むように、そして力強く抱きしめました。
七尾百合子
そんな二人の姿は、まるで千鶴さんの作品の様に、実は壮大で、とても尊いものの様に思えます。
七尾百合子
「どうやら全ては私の杞憂で終わったみたいですね」
七尾百合子
「だって、私なんかが間に入らなくても、ううん、入る隙なんてないほどに…」
七尾百合子
「二人の心(アート)はこんなにも強固に結ばれているんですから」
(台詞数: 50)