馬場このみ 29歳 プロデューサー12話
BGM
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脚本家
nmcA
投稿日時
2017-05-28 00:58:57

脚本家コメント
第1章「名ばかりヴィンテージワイン」
【ここまでのお話】
 武道館ライブ後、仮眠をとっていたこのみは5年後の765プロに心だけタイムスリップしていた。自らの身体の変化に戸惑うものの、プロデューサーとして活動することを決意する。
 勢いを落とす紗代子と百合子とのユニット『スピカ』のフェスを成功させるため、このみはフェスでボーカルとビジュアルの流行を作り出す作戦を実行する。1曲目、2曲目とこのみの策が嵌り徐々に会場を盛り上げていき、そして、スピカは運命の3曲目を歌い始める。
次で第1章はラストです。

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七尾百合子
「わたしは~くやしいんですよおおお~」
馬場このみ
空のグラスを片手に百合子ちゃんが机をたたくと、小皿が一斉に音を鳴らした。
高山紗代子
「分かったから、ほら、もう机を叩かないの」
七尾百合子
「じゃあ……のみます!おがわさん!かるあみるく!」
高山紗代子
「あ、あとお水と……このみさんはどうしますか?」
馬場このみ
「そうね。シャンディガフで」
七尾百合子
「じゃあ、わたしもそれついかで~」
高山紗代子
「ダメ!小川さん、シャンディガフは一つでいいですから。あと、ゆず蜜サワーをお願いします」
馬場このみ
ここはたるき亭2号店。事務所の1階にあるたるき亭で働いていた小川さんが仕切る姉妹店だ。
馬場このみ
劇場の近くに店を構えるため、頻繁に利用しているそうだ。私たち専用の個室があるのが嬉しい。
七尾百合子
「ううっ……2人ともくやしくないんだぁ〜。あんなにがんばったのに〜」
高山紗代子
「そんなこと言ってないでしょ?私だって悔しいよ。でも、今は良かったところを喜ぼうよ」
馬場このみ
「そうよ。スピカの魅力がダンスブームに負けないことがはっきりしたのよ。大きな収穫じゃない」
馬場このみ
2人がかりでなぐさめにかかるが、百合子ちゃんは頬杖をついたままふくれっ面を治さない。
馬場このみ
……三曲目、スピカがとっておきを出そうとした時、隣のダンスグループが三曲目を始めた。
馬場このみ
……まさかの完全新曲を。
馬場このみ
さすがにダンスブームでダンスの新曲を出されては、スピカとして打つ手はなかった。それでも……
馬場このみ
「それに、あの状況で動揺せずにやり切ったことを誇りなさい。そう簡単にできることじゃないわ」
高山紗代子
「あと、あの状況でも観客が半分くらい残ったんだよ。これこそがんばった結果でしょ」
七尾百合子
「そうですけどぉ……」
馬場このみ
百合子ちゃんはぶつぶつと何事かを言って、そのまま突っ伏してしまった。
馬場このみ
「……ねぇ、紗代子ちゃん、百合子ちゃんって酔うといつもこうなの?」
高山紗代子
「まぁ、だいたいは。でも、ここまでひどいのは初めてですね……」
馬場このみ
「よっぽど悔しかったのね。はぁ、もうちょっといいサポート方法があったのかしら?」
高山紗代子
「このみさん、百合子に口留めされたんですけど、百合子はこのみさんのために頑張ったんですよ」
馬場このみ
「わ、私のため?」
高山紗代子
「5年前から来て初めての大仕事なんだし、成功させたいって。百合子、優しいですよね」
馬場このみ
「……まったく、もう。まだチャンスはあるっていうのに」
馬場このみ
私はコップに残ったレッドアイを一気に飲み干した。
高山紗代子
「今、まだっておっしゃいまいしたけど、戻る方法って……」
馬場このみ
「ええ、見つかっていないわ。手がかりの手の字程もね」
高山紗代子
「……だいたい、どうしてタイムスリップしたんでしょうか?しかも、なんで5年後に」
七尾百合子
「……そんなの、このみさんに、じゅうだいなしめいがあるからにきまっているじゃないですか!」
高山紗代子
「ゆ、百合子、起きてたの!?」
七尾百合子
「たいむすりっぷしたさきのこまっているひとをたすける!ふぁんたじぃのじょうしきです」
馬場このみ
「そんな大袈裟な……」
七尾百合子
「おおげさじゃないです!だって、このみさんはわたしたちをすくってくれました!」
七尾百合子
「いま、もどれないのはきっとこまっているひとがまだいるからです。たとえば……」
馬場このみ
「例えば……?」
七尾百合子
「き……き……」
馬場このみ
「き?」
七尾百合子
「き……きもちわるい……」
馬場このみ
「……え?」
高山紗代子
「このみさん、どいてください!百合子、ほら、立って!!」
馬場このみ
結局、百合子ちゃんはそのまま動けなくなったので、お疲れ様会は解散となった。
馬場このみ
「重大な使命……ね」
馬場このみ
迎えに来た昴ちゃんと紗代子ちゃんに支えられる百合子ちゃんを見送り、私は携帯を取り出す。
馬場このみ
ひとつだけ、担当アイドルを告げられてから気になっていることがあった。
馬場このみ
たぶん、他の子に聞いても困った顔をするだろう。こういうときはやはり……。
馬場このみ
通話履歴の一番上、私は「百瀬莉緒」の名前をタップした。

(台詞数: 50)