天空橋朋花
焼け跡からは人形の頭部や四肢と思われるものが多く散見された。
天空橋朋花
その為、中々“本物”が探り当てられず、警察の捜査は難航したのだとか。
天空橋朋花
『もしかしたら件の火事は人形の呪いが引き起こしたものなのかもしれない。』
天空橋朋花
そういった類の噂が、幾つもの尾鰭を付けながら街を独り歩きしていた。
天空橋朋花
中には妙に凝ったものもあった。
天空橋朋花
『屋敷が全焼したにも関わらず、何故か“2つ”の人形だけが無傷の状態で発見された』と。
天空橋朋花
「──うふふ、面白いですね~。書籍化したら売れると思いますよ~?」
天空橋朋花
私の発言に同調し、人々が笑う。
天空橋朋花
こんな街の傍らで真実など見つかる筈も無し。
天空橋朋花
所詮は一時の噂。時間が経てば皆の記憶から抹消される。
天空橋朋花
今はただ、人混みに紛れて待てばいい。
天空橋朋花
「ね」
天空橋朋花
「あなたもそう思うでしょう?」
七尾百合子
「……」
天空橋朋花
透き通ったペリドットの眼の少女は静かに佇む。
天空橋朋花
その子は幼い容姿でありながら、憂いの表情がひどく綺麗だった。
天空橋朋花
彼女もまた、あの忌々しい暗澹の日から意思を持ち、私と苦痛を分け合った家族だ。
七尾百合子
「……」
天空橋朋花
その子は亡骸だった。
天空橋朋花
どうやら人形の小さな意思では、世の重圧に耐えられず潰されてしまうらしい。
天空橋朋花
意思を失った人形。
天空橋朋花
何らおかしいことはない。それが本来の在り方なのだから。
天空橋朋花
むしろ客観的に見れば、いつまでも意思を保ち続ける私の方こそ異常なのだ。
天空橋朋花
しかし、私は自身を異常とは思わない。
天空橋朋花
世の重圧に負けないほどの強い想い、その想いこそが私を地に立たせていると自覚している。
天空橋朋花
……果たさなければならない目的がある。
天空橋朋花
────
天空橋朋花
手記を閉じる。
天空橋朋花
薄暗い店内を見渡すと世界中で出会った人形たちが棚に鎮座している。
天空橋朋花
彼女らもまた意思無き亡骸だが、これらは人間でいうところの「死」を迎えたわけではない。
天空橋朋花
ある時、人々の中に古い物を神聖視する好事家が一定数存在することを知った。
天空橋朋花
アンティークという言葉の意味、その付加価値……
天空橋朋花
アンティークショップというものが「物好き」を捜すのにうってつけだということも。
天空橋朋花
私の目的は──人形へ「命」を宿すこと。
天空橋朋花
人は禄でもない生き物。
天空橋朋花
だが、それが全てではないと理解している。
天空橋朋花
我らの母であり、主だった人が教えてくれたことだ。
天空橋朋花
だから信じてみようと思った。物言わぬ人形に強い意思を宿してくれる人がいる、と。
天空橋朋花
私たちを愛して、私たちに愛させてくれる人が必ずいるということを──。
天空橋朋花
「そうすれば、きっと──」
高山紗代子
「叶いますよ。夢は叶える為にあるんです」
天空橋朋花
不意の呼びかけに、危うく手記を落としかけた。
高山紗代子
「ふふ、こんばんは。店主さん」
天空橋朋花
「……おや、お客様」
高山紗代子
「あ、まだ名前を言ってませんでしたね。私、高山紗代子っていいます」
高山紗代子
「気軽に紗代子って呼んでください」
天空橋朋花
「……これはこれは、ご丁寧にどうも」
天空橋朋花
「では、紗代子さん。こんな夜更けにどうされました?」
高山紗代子
「今日は素敵な店主さんをお迎えに」
天空橋朋花
「…………はい?」
(台詞数: 50)