文学少女の恋心。
BGM
空想文学少女
脚本家
かもねぎ
投稿日時
2017-02-19 21:25:06

脚本家コメント
相変わらずの雰囲気ドラマですがよろしければ。

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七尾百合子
『七尾さーん、終わったらこっち手伝ってくれるー?』
七尾百合子
「は、はーい」
七尾百合子
昼下がりの図書室。私は図書係の仕事をしていました。
七尾百合子
本棚の配置は大体覚えているので、棚に書いてある五十音順の通りに並べていきます。
七尾百合子
【あ】、【い】、【う】、【え】、【お】。【か】…この本棚はここまでだから、次の本棚へ。
七尾百合子
あ、これはシリーズものだから順番にそろえて、と…よし、次は【き】、【く】、【け】、【こ】…
七尾百合子
きっちり揃えると、心もすっきりする。本と一緒に心も整理されていくような、そんな感覚。
七尾百合子
だけど、最後の本棚には、私の心を乱すものがあるのです。
七尾百合子
……【る】、【れ】、【ろ】、【わ】……きた。
七尾百合子
静かな図書室に響きそうになる鼓動を、そっと落ち着かせて。そう、本の整理は心の整理。
七尾百合子
……いつもの本棚の向こう側に、今日もあの人はいました。
七尾百合子
薄手のカーテンを抜けた柔らかい光の中。いつもの場所で本を読むあの人。
七尾百合子
宙に舞う埃がきらめいて、光の妖精が彼の周りで踊っているようでした。
七尾百合子
まるでおとぎ話の中に迷い込んだような感覚に心を、目を奪われていました。
七尾百合子
こっそりばれないように見てるの、ほかの人にどう見えているのかな。
七尾百合子
ああ、時間が止まってしまえばいいのに。この瞬間が、ずっと続けばいいのに。
七尾百合子
……やっぱりそれはなしで。進むものも進まなくなってしまいます。
七尾百合子
……あ、本閉じちゃった。もう読み終わったのかな。
七尾百合子
……あ、本閉じちゃった。もう読み終わったのかな…わ、こ、こっちきた!
七尾百合子
本を返しに来た彼と、本棚越しに向かい合う形になって。なんとなく目が合った気がして。
七尾百合子
時間が止まったって、こういうことなのかも。
七尾百合子
このまま手を伸ばせば触れられそうな距離。そっと本を傾ければ、届きそう。
七尾百合子
……えいっ。
七尾百合子
罪悪感を覚えながら本を向こう側に倒します。本をこんな風に扱うなんて、バチが当たりそう…。
七尾百合子
彼は落ちてしまった本を拾い上げて、埃を払ってから手渡してくれました。
七尾百合子
うぅ、余計に罪悪感。彼は私の作戦を偶然だと思っているのでしょうか。
七尾百合子
『……あの』
七尾百合子
「は、はいっ!?」
七尾百合子
声が裏返った。恥ずかしさで消えてしまいたくなりそう。
七尾百合子
『その、持ってる本、借りられますか』
七尾百合子
「あ、こ、これですか!はい、受付に言ってもらえれば!」
七尾百合子
『…よかった。それ、ずっと探してたんだ。いつも置いてなくて、なかなか借りられなかったから』
七尾百合子
「ええと、予約してもらえれば、優先して借りられましたよ?」
七尾百合子
『……そうなんだ。受付の人に話しかける勇気、あんまりなかったから』
七尾百合子
「……あの」
七尾百合子
なけなしの勇気を振り絞って、言葉を紡ぎます。。今この瞬間を逃したら、次はない気がしたから。
七尾百合子
「本を探すとき、私に行ってください。貸し出しも、手伝いますから」
七尾百合子
「私に話しかけてくれる勇気を出してくれたから、私もなにか手助けがしたいな、なんて…」
七尾百合子
怖くて顔が見られなかった。突然こんなこと言って、困った顔してないかな。
七尾百合子
『……ありがとう。えっと、それじゃあ、お願いします』
七尾百合子
声は優しくて、顔は思ったよりも困っていなくて。
七尾百合子
やっと動き出した物語に、怒涛の展開を期待している自分がいました。
七尾百合子
勘違いしてしまいそうになるのは、恋愛に耐性のない人の悪い癖かもしれません。
七尾百合子
……けれど結局、その日はそれだけの会話で終わりました。
七尾百合子
その後はいつものように、彼は本を読んで、私は本を整理して。
七尾百合子
ああ、この一方通行の恋の展開は、一体どこに続いていくのでしょうか。
七尾百合子
…願わくば。今度は、目と目を合わせて、好きなものを語り合えたら。
七尾百合子
…なんて、自分から話しかける勇気もないのに。
七尾百合子
ゆめみたいなラブストーリーは、まだまだフィクションのままで。

(台詞数: 49)