朝靄に舞う
BGM
あのね、聞いてほしいことがあるんだ
脚本家
親衛隊
投稿日時
2017-01-24 22:08:23

脚本家コメント
ヘッドバットきめる話。
続かない。所々に誤字あります。

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七尾百合子
某日早朝、今日はいつもより早く床を離れた。
七尾百合子
白い息を吐きながら、せっせと雨戸を開いていく。
七尾百合子
庭先には霜が降りている。どうりで寒い……。
七尾百合子
「んん?」
七尾百合子
微かだが、立ち込める朝靄の向こうに影が見える。
七尾百合子
いや、それだけなら特段変わったことではないのだが、
七尾百合子
その影、何やら不思議な動きをしている。
七尾百合子
「もぞもぞ」というか「くねくね」というか、とにかく怪しげな動き。
七尾百合子
「もしや……盗人?」
七尾百合子
しかし、この辺り一帯は田畑しかないうえに今は冬。収穫もとうに終えている。
七尾百合子
何にせよ他人の土地に無断で侵入している事実は変わりないし、
七尾百合子
折角耕起した土を踏み荒らされては堪ったものではない。
七尾百合子
ならば、と意を決して影へ近付くことにした。
七尾百合子
念の為に両手に鍋を持ち、抜き足差し足で忍び寄る。
七尾百合子
しゃん、しゃん──。
七尾百合子
影が濃くなるに連れ、耳が鈴の音をとらえるようになった。
七尾百合子
こうなると余計に意味が解らない。盗人であるなら尚更。
七尾百合子
まさか狂人では? と背筋に悪寒が走ったが、立ち止まり、冷静に一考してみる。
七尾百合子
そういえば、曾祖母ちゃんからこんな話を聞いたことがある。
七尾百合子
「世には今年一年の豊穣を祈り、田園にて舞を舞う神様があられる」と。
七尾百合子
朝靄に御身を隠し、鈴の音で存在を知らせるらしい。
七尾百合子
ゆえに、決して御姿を認めてはいけない。とも云っていたか。
七尾百合子
要は不審に思っても努めて無視しろということだ。
七尾百合子
しかし、生活に困窮する者も決して少なくないこの現代に於いて、
七尾百合子
先の神様に扮する罰当たりな輩がいないとも言い切れないわけで。
七尾百合子
「うーん、じゃあ折衷案」
七尾百合子
「一瞬だけ見よう」
七尾百合子
すごくあたまわるいきがする。
七尾百合子
沸き上がる探求心。そう、若人なら然もありなん……だ。
七尾百合子
今、鈴の音はかなり近い。よく聴けば律動的に鳴っているのが判る。
七尾百合子
あと数歩。あと数歩だけ踏み込めば──。
木下ひなた
「あたっ」
七尾百合子
転んだ! 『たぶん神様』転んだ!
七尾百合子
というかもう私の足許に御尊顔が!
木下ひなた
「あ……」
七尾百合子
当然ながら私の存在に気付いたようで、
木下ひなた
「あ……あ……」
七尾百合子
見る見る内に『たぶん神様』のお顔が青ざめていくのが見て取れた。
七尾百合子
何か言わなければ。仮に神様だったとしたら平伏しなければならないのか?
七尾百合子
というか神様だったら、この状況は非常に不味いのでは?
七尾百合子
今度は私の顔から血の気が引いた。
七尾百合子
「か、数々の無礼、誠に申し訳なく──」
七尾百合子
全身全霊、平伏の精神を以て勢いよく頭を下げた。
七尾百合子
これが不味かった。
七尾百合子
凄い勢いで下げられた私の頭は、起き上がろうとした『恐らく神様』の頭とごっつんこ。
七尾百合子
結果として、私が頭突きをする形となってしまった。
木下ひなた
「きゅう……」
七尾百合子
「えぇ、ちょっ……!」
七尾百合子
まるで絵のように目を回して地面に倒れ込む『恐らく神様』。
七尾百合子
これが、私と神様の出会いだった。

(台詞数: 50)