七尾百合子
「むむむ…うーん…」クルンッ
七尾百合子
事務所で一人頭を抱え問題集と向き合っている少女、七尾百合子。
七尾百合子
何の変哲もない、アイドルの少女。
七尾百合子
「うーん…わかんないなぁ…」クルクルッ
七尾百合子
彼女は考えるときにペンを回す。
七尾百合子
頭の回転数を表すように志向が深まるとその回転も激しさを増していく。
七尾百合子
技巧を凝らし、見る者を魅了するような素早いペンさばき。
七尾百合子
相当の難問なのが、そのペンの回転からうかがえる。
七尾百合子
「あーもうわかんないー!」クルクルグルンッ!
七尾百合子
経過時間に比例して速くなるペンの回転。
七尾百合子
いつしかペンの回転は常人のできるそれをはるかに超えていた。
七尾百合子
「えー?これを…こうしても…ここも…違うし…」ヒュンヒュン
七尾百合子
風切り音。およそペンを回すだけではならないような音が聞こえてきた。
七尾百合子
気のせいか彼女の周りの紙類がはためいているように見える。
七尾百合子
彼女は気にも留めずなおもペンの速度が上がる。
七尾百合子
「むぅ…」ビュンビュン
七尾百合子
いや気のせいではない。明らかに彼女を中心に風が起こっている。
七尾百合子
本のページはめくれ、プリントが飛び交う。
七尾百合子
締め切られた部屋の中、彼女のペンが巻き起こす風が踊る。
七尾百合子
「あー…えー……これもダメ……」ビュオー
七尾百合子
もはや風ではなく嵐。窓もドアもガタガタと音を立てている。
七尾百合子
風が部屋を抜け出すのも時間の問題だろう。
七尾百合子
ピシピシと、嫌な音が窓から聞こえた。
七尾百合子
にわかには信じがたいがペンの起こした風が窓を割るようだ。
七尾百合子
「むむむ…ぐぬぬ…あー…」ゴウゴウ
七尾百合子
窓が割れ部屋の外に風が躍り出る。外から聞こえる悲鳴。
七尾百合子
突然窓が割れたのだから当然といえば当然だ。
七尾百合子
だが彼女のペンはとどまるところを知らない。
七尾百合子
いまだ加速を続け強い風を起こす。
七尾百合子
とどまることのない風はやがて東京を覆い、日本を覆い
七尾百合子
世界を覆った。
七尾百合子
人も車も、ビルさえも吹き飛ばす嵐。
七尾百合子
彼女は原因が自分にあることに気付かない。
七尾百合子
彼女はおろか、誰一人として気づかないだろう。
七尾百合子
ペン回しが荒らしを生じるなんて奇怪な事実に。
(台詞数: 35)