横山奈緒
塔の内部は広壮としていた。
横山奈緒
人気のない空間に跫音だけが不気味に響き渡る。
横山奈緒
百合子の護衛(と思われる)は、私の後ろを付いて歩き、離そうとしない。
横山奈緒
隙あらば逃げようと思ったのだが──背中に当てられている物が行動意欲を阻害する。
横山奈緒
その上、腕まで拘束されているのだから、如何にせよ逃げるのは容易ではない。
横山奈緒
しばらく歩いて案内されたのは、壁や天井が白に統一された室。ここもかなりのスペースがある。
横山奈緒
中には白衣を纏った連中数人が屯していた。
横山奈緒
無論、そこには瑞希と百合子も含まれる。
横山奈緒
百合子は私の来訪を予期してか、特段驚く素振りも見せず、こちらへと近付く。
七尾百合子
「お疲れ様です、響さん」
横山奈緒
響と呼ばれる女性は百合子の顔を見るやいなや、ようやく私の拘束を解除した。
七尾百合子
「それと……奇遇ですね。またお会いするなんて」
横山奈緒
「後ろに手ぇ回されて無理くり歩かされた挙句、こんな所で再開なんて奇遇としか言えへんな」
横山奈緒
思いつくがまま皮肉ってみる、が。
七尾百合子
「どうやら道中、紆余曲折あったようですね。心中お察しします」
横山奈緒
百合子もまた、皮肉に笑うだけだった。
横山奈緒
──────
七尾百合子
「今回、皆様に集まっていただいた理由は他でもありません」
七尾百合子
「我々人類の大いなる躍進の為、皆様の知恵をお借りしたいのです」
横山奈緒
壊れたラジオよろしく、先と変わらない文言を壇上で語る百合子。
横山奈緒
正直、拍子抜けしてしまった。
横山奈緒
強引に連れて来られたものだから、どんなマッドサイエンティストが待つのかと思いきや──
横山奈緒
まさか講演を聞かされる羽目になろうとは思わなかった。
横山奈緒
ひょっとして、百合子はこれを見せたかったのだろうか。
横山奈緒
だとしたら新手のツンデレか。心が和む。
横山奈緒
「ふぁ……」
横山奈緒
しかし、眠い。
横山奈緒
百合子には悪いが人間、興味が薄いと断定したものに感心を持つ事は非常に億劫なもの。
横山奈緒
少なくとも私はそうだ。
横山奈緒
欠伸を噛み殺しつつ周囲を見渡すも、どれも真面目の塊のような人間ばかり。
横山奈緒
隣に座る瑞希も、何やら熱心にメモを取っている。面白くない。
横山奈緒
「……」
横山奈緒
仕方ない。ここは可愛い友人の為。
横山奈緒
その勇姿、穴があくまで目に焼き付けてやろうではないか。
七尾百合子
「──と、皆さんご存知のCNTですが、あらゆる耐久テストもクリアし──」
横山奈緒
うとうと。
七尾百合子
「──しかし、航空テロの可能性を踏まえ──」
横山奈緒
うと……うと。
七尾百合子
「現在の──最終──はスペース──と──であり──」
横山奈緒
ぐー。
真壁瑞希
「……さん、横山さん」
横山奈緒
「んぅ……もう食べられへ」
真壁瑞希
「……つねっ」
横山奈緒
「あ痛っ!」
横山奈緒
足を抓られた。
真壁瑞希
「お話、終わりますよ」
七尾百合子
「──それでは、これよりテストを行いますので移動をお願いします」
横山奈緒
「……」
横山奈緒
「テスト?」
(台詞数: 49)