七尾百合子
「旧第三惑星消失」という前代未聞の大事件は世界を揺るがした。
七尾百合子
調査隊が派遣されてからおよそ一ヶ月、未だ進展はないらしい。
七尾百合子
ニュースで『黒騎士』の名が上がる事はなかった。
七尾百合子
私も目撃者として一応、情報を提供したのだが……笑い話で終わってしまった。
七尾百合子
惑星よりも遥かに小さいデブリが光り輝いたと思ったら、惑星諸共消えていたんです!
七尾百合子
「はい、そうですか。」
七尾百合子
「ま、そんな状況であれば混乱するのも仕方ないね。」
七尾百合子
「いい病院があるんだ。紹介しよう。」
七尾百合子
まったく失礼な人たち。いいんだけどね。
七尾百合子
そんな訳で精神面の病気を疑われた私は、半強制的に家で療養する事となった。
七尾百合子
最初はいい機会だと思った。
七尾百合子
当たり前だ。こんな現実から乖離したミステリー……その真っ只中にいるのだ。
七尾百合子
『黒騎士』について調べる為に、私の持つ全てのスキルを駆使し、日夜デスクに齧り付いた。
七尾百合子
気分はスーパーハッカーユリコ!
七尾百合子
今ならどこぞやの永世中立国の素粒子研究施設にも侵入出来ちゃいそう!
七尾百合子
……はい、生意気言ってすいませんでした。何の成果も得られませんでした。
七尾百合子
スキルとか言いつつ、一般人でも入れる電子資料館へアクセスするか、
七尾百合子
電子の海に溢れ返っている信憑性の欠片もない情報しか見つけられませんでした……。
七尾百合子
信頼足りうるのは、最初に『黒騎士』本体から得た情報くらいか。
七尾百合子
「……」
七尾百合子
だからと言って、それが糸口になる筈もなく、
七尾百合子
いつも通りベッドに寝転がり、天井を見つめては終わる日々が続いた。
七尾百合子
「はぁ……」
七尾百合子
目が痛い。眼球の裏にうごめく物体がいるみたいだ。
七尾百合子
ここ数日の無理が祟ったか。やはり慣れない事はすべきではない。
七尾百合子
もう忘れようか。でも……
七尾百合子
「うー……」
七尾百合子
今は考えるのはよそう。
七尾百合子
痛みは予想以上で、頭痛から吐き気まで催してきた。
七尾百合子
「今日は早く寝よう……」
七尾百合子
時間は早いが、大人しく床に就く事にした。
七尾百合子
――――――
七尾百合子
その夜、不思議な夢を見た。
七尾百合子
フラッシュバック?
七尾百合子
鮮明に蘇るあの風景。
七尾百合子
『黒騎士』の大きな目と黒い体と、叫び声。
七尾百合子
声?
七尾百合子
だって声の主は乗客でしょ?
七尾百合子
……本当にそう思う?
七尾百合子
思い出して。
七尾百合子
あの日、私が最初に聞いた……私の知り得ない筈の音。
七尾百合子
その音を、あなたは知っている。
七尾百合子
そう、あなたは知っている筈よ。『黒騎士』を。
七尾百合子
え……。
七尾百合子
……思い出して。
七尾百合子
信じて、受け入れてあげて。
七尾百合子
アレを怨恨から解放してあげて。
七尾百合子
塔の少女は……そう願っていた。
(台詞数: 48)