篠宮可憐
……ううっ、本当に今夜決行しなくちゃいけないんでしょうか。まだ、心の準備ができてなくて。
横山奈緒
アカン!今夜やらな、また次の年次の年って延び延びになるで。去年、逃げ出してしもたんやろ?
七尾百合子
そうです!今宵こそ私達が独り立ちするべきとき!いつまでも半人前ではいられせん!
七尾百合子
今日はハロウィン。大勢の人が受かれていますし、警備も大騒ぎに気をとられる筈。
七尾百合子
風のように疾く事を為し、林のごとく静かに去れば成功間違いなしです!
横山奈緒
そやで。今日のお祭り騒ぎの中では、私らのナリも目立たへんからな。経験積むのにもってこいや。
篠宮可憐
で、でも……本当に大丈夫なんでしょうか。誰かが怪我したり、迷惑お掛けしたり……
七尾百合子
大丈夫です、そんなこと思い悩まなくても。
横山奈緒
まさしく私ら、見ず知らずの誰かを怪我させたり、迷惑掛けに行くんやからな!
横山奈緒
私らヴァンパイヤの習慣……『吸血』の実地練習!これができんと、一人前にはなれへんで!
七尾百合子
足音の忍ばせ方、血管の位置の見極め方、牙の使い方、万一失敗したときの逃れ方……
篠宮可憐
そうだよね、レッスンの日々は今日のためにあるんだよね……でも、いざとなると怖くて……
横山奈緒
ああもう、煮えきらん娘やなあ!じゃあいっぺん、復習しとくか!?
七尾百合子
はい、トマトです……トマトを人間の体に見立てて、皮、すなわち皮膚に牙を立てる練習です。
篠宮可憐
そ、それじゃあ、私やってみるね……(プスッ)
篠宮可憐
……うん、上手くできたみたい。トマトの爽やかな香りを嗅いで、リラックスして取り組めました。
横山奈緒
そうかそうか……本番では、男の人の匂いの中でそれをやるんやけどな。
篠宮可憐
……ひいっ!?お、男の人に近づいていくんですか……
横山奈緒
いやまあ、女の人でも構わへんのやろうけど……女の吸血鬼は男の人から吸うのが相場やないか?
篠宮可憐
……わわ、私……絶対無理です~!
横山奈緒
……逃げてもうたな。これで可憐は、今年も実地試験は不合格やろな。
七尾百合子
そういう奈緒さんはどうなんですか?成功させられる自信、あるんでしょうか。
横山奈緒
任せときぃ!どこぞの林さんみたいに、素早くやればエエっちゅうことやろ?
七尾百合子
いや、あれは風林火山の例え話で、人物名では……
横山奈緒
こうやって獲物を見定めるやろ。で、足音たてずにダッシュして……
横山奈緒
……ほら、一気にガブ~ッとやってもうたで!ほら見てみ、トマトに歯形がクッキリと!
七尾百合子
噛み千切ってどうするんですか!私達、食人鬼じゃないんですから!血を吸わないと。
横山奈緒
それもそうやな……でも駆け抜けざまに、血ぃ吸うなんて無理なんちゃう?
七尾百合子
だからそこは、相手に抱きつくとか、手足を絡ませるとか……
横山奈緒
……ああ、アカンて!私、そんなダイタンなことできへんって、無理やわ!!
七尾百合子
……実地試験落第者が、もう一人出そうですね。
横山奈緒
そういう百合子はどうなんや!アンタもこういうの、苦手なんやないか!?
七尾百合子
た、確かに私も、男の人に抱き着くなんて怖いですけど……
七尾百合子
でも、私にはイメージトレーニングの力が有ります!空想できるものは実現出来る筈。
七尾百合子
……そう、私はノスフェラトゥ。現と夢の狭間に微睡む不死の存在。
七尾百合子
夢の世界の主たる我には、夢の世界を統べる力がある。この世界に足を踏み入れれば、
七尾百合子
いかなる強者、智者も無力。ただひたすらに我に平伏すのみ。
七尾百合子
全てが我が意によって構成された世界。反逆者も解放者も有り得ぬ空間。死者の国の玉座。
七尾百合子
……最近それに座ることに、些か退屈を覚えて来たのだ。だからこそ気紛れに、お主と話している。
七尾百合子
お主はなかなか興味深い男だ……力があるわけではなく、さりとて智に富む訳でもない。
七尾百合子
ただ一点、我に平伏さぬ、対等以上で在ろうとするのが面白いのだよ。
七尾百合子
力を持たぬ故に、我の力に怯えぬのか。智が無き故に、我を恐れぬのか。
七尾百合子
我が乾きを癒す糧として棺の前で果てるか、共に永遠の夜を生きるか、特別に選ばせてやろう……
横山奈緒
あの、百合子さんや。さっきから妄想、ずっとダダ漏れなんやけど……
七尾百合子
……
七尾百合子
……うわ~っ!き、聞いてたんですか!?もう私、生きていけない……!!
横山奈緒
……百合子もどっかに走っていってしもうたな。今年は三人とも失格やろうな。
横山奈緒
……しゃあないわ。二人のぶんのお菓子も貰って帰るとするか。トリックオアトリート、やで!
(台詞数: 48)