如月千早
私は今、プロデューサーと歩いている。
如月千早
最近始めた趣味のカメラに付き合ってくれると言われ、久々の二人きりだ。
如月千早
少し、緊張する…
如月千早
ちらりと隣を見てみると…
如月千早
彼は何でもなさそうに歩いている。
如月千早
…これは少し、不公平なのではないかしら?
如月千早
私だけ、その…ドキドキして…
如月千早
そこへ突然プロデューサーが綺麗だな、と言ってきた。
如月千早
私は平静を装って「はい、そうですね」と返した。
如月千早
…ダメね。相変わらずの素っ気ない返ししか出来ない。
如月千早
春香や美希ならもっと話を広げて盛り上げられたのだろうか…?
如月千早
そう考え、また一人で落ち込む。
如月千早
どうしても、私は此方の方面には自信が持てない。
如月千早
大丈夫か?と、彼が心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
如月千早
(…この優しさはハリウッドから帰ってきても変わらないわね)
如月千早
彼が研修に行ってる間はみんな、どこか元気が無かったように見えた。
如月千早
いや、実際無かったのだろう。事務所があんなに静かになったのはいつ以来だったか。
如月千早
それだけ彼は事務所の要、765プロに無くてはならない存在になっていたのだろう。
如月千早
事務所に来たばかりの時はあんなに頼りなかったのに。ミスの連続で焦って、またミスをして…
如月千早
そんな人が今では全国的に有名なアイドル事務所の中心人物なんだから…分からないものね。
如月千早
初めは無名の事務所のアイドルが今ではハリウッド映画に出たり、アイドルアワードを受賞したり…
如月千早
そして私は、海外レコーディングの仕事を受けたり…。本当に感謝してもしきれないわ。
如月千早
あ、綺麗な夕日…
如月千早
(これはいい写真が撮れそうね)
如月千早
そう思いながら、私はプロデューサーに夕日をバックに撮らせてくれと頼む。
如月千早
少し戸惑っていたが、結局は撮らせてくれる優しい彼。
如月千早
(あぁ、この時間がいつまでも続けばいいのに…)
如月千早
…私は相当、彼に参っているようだ。
如月千早
あの頃の私からは想像も出来ないでしょうね。
如月千早
そんな事を考えながらも、気づかれないように、私はシャッターを押す。
如月千早
うん、いい絵が撮れた。
如月千早
私がこの趣味に行き着いた理由は…『今』を大切に、ひとつひとつを見逃さないように。
如月千早
そう考え、思い付いたのがカメラだった。
如月千早
アイドルになったばかりの私は…歌ばかりで、目の前の大切なことを見逃していたようで…
如月千早
優の事も、考えてるようで…本当は自分の事しか考えてなかったのかもしれない…
如月千早
現実から目を逸らして、優との思い出の歌に逃げていただけなのかもしれない…
如月千早
それに気づかせてくれたアイドルのみんなや律子、音無さん、社長…
如月千早
そして、プロデューサー
如月千早
私にはこんなにも眩しくて、かけがえのないものがすぐ傍にあったんだと気づいて…
如月千早
私はカメラを始めた。
如月千早
確かにみんなとの思い出は色褪せず、心に残っていくだろうけど…形にしておきたかったのだ。
如月千早
さて、そろそろ日も暮れるし、そろそろ戻ろうかしら?とても名残惜しいのだけれど…
如月千早
そこで、彼が尋ねてくる。
如月千早
ふふ、こんなことを聞く彼はやっぱり、私たちみんなの事を常に考えてくれているのでしょうね。
如月千早
優しい、本当に優しい人。
如月千早
…そんな彼だからこそ、こんなことを聞いてきたのだろう。
如月千早
これからも俺と一緒に上を目指してくれるか?と、今更なことを。
如月千早
ふふ、今や凄腕の有名プロデューサーなのに、少し自信がなさそうなところは相変わらずね。
如月千早
勿論、私の答えは決まっている。これからも絶対変わらない気持ち、それは…
如月千早
「はい、貴方とならいつまでも…どこまでも」
(台詞数: 50)