七尾百合子
今からする話はあなたが生まれるずっと前の出来事
七尾百合子
あなたには想像することができないほどに遠い遠い過去の話
七尾百合子
決して結ばれることのない男と女の...
七尾百合子
いえ、一人の男と化け物の物語
七尾百合子
物語の始まりはおとぎ話にならどこにでもあるような陳腐なもので・・・
七尾百合子
容姿端麗で秀才な貴族の男と、書物を漁る事が唯一の楽しみな冴えない使用人の娘
七尾百合子
この二人の邂逅から幕を開けるのでした
七尾百合子
そう、女子も一度は人の子だった
七尾百合子
出自の違いなどもろともせずに順調に二人の恋は育まれていった
七尾百合子
だけど、そんなある日、悲劇は起きたのです
七尾百合子
二人の恋を引き裂こうと企む者の手によって娘は怪物に転異させられてしまいました
七尾百合子
娘は生物の生き血を飲まなければ生を保つことが叶わぬ吸血鬼になってしまいました
七尾百合子
それでも娘は人の血を吸うことは決してありませんでした、家畜の血を貰い命を繋ぎました
七尾百合子
だけど、男と一緒になることが叶わぬ事を誘った化け物は男から離れようとして・・・
七尾百合子
男はそれを拒びました
七尾百合子
そして、強く抱きしめると娘にこう言った
七尾百合子
「たとえ君の見た目が変わってしまったとしても、僕は君の心に惹かれたんだ」
七尾百合子
「白い百合のように美しい君を、いつまでも僕は愛し続ける」
七尾百合子
それから、永遠の愛を誓った二人には少しばかりの幸せな時が訪れました!
七尾百合子
だけど、狩人に放たれた矢によって平穏な日々は崩れ去って・・・
七尾百合子
男は化け物を庇い、無数の矢に射抜かれ絶命してしまう
七尾百合子
「君の血を僕に飲ませてくれないか、そうすれば・・・僕も君と同じになれる」
七尾百合子
「これからも、ずっと君を守ることができる」
七尾百合子
死の間際、虫の息をしている男の言葉に娘は首を横に振る
七尾百合子
娘は、たった一度でも人の生き血を吸ってしまえば戻れなくなると感じたのだ
七尾百合子
血を飲ませる代わりに男の手を取ると娘は微笑む
七尾百合子
「ごめんなさい、私には貴方を変える事はできません」
七尾百合子
「だけど、たとえ貴方がいなくなってしまっても、私は貴方を想い続けます」
七尾百合子
「こんな私の事を愛し続けてくれたのですから・・・」
七尾百合子
男は化け物の言葉を聞くと満足そうに微笑んで・・・
七尾百合子
「そうか、ならば僕は・・・必ず生まれ変わって、また君を迎えにいくよ」
七尾百合子
男はそう言い残すと、この世から旅立ってしまった
七尾百合子
「はい、約束です・・・私待っていますから・・・」
七尾百合子
「貴方はこんな私の事を・・・」
七尾百合子
「貴方はこんな私の事を・・・白い百合のようだって言ってくれましたから・・・」
七尾百合子
それから暗闇に堕ちた女は男を待ち続けた
七尾百合子
白い百合の様に純粋な想いで男の事を想い続けながら・・・
七尾百合子
けど・・・とてつもなく永い年月を待ち続けた寂しさから女は変わってしまう
七尾百合子
涙腺が枯れてもなお涙を流し続ける彼女の涙は血の様に赤くなり・・・
七尾百合子
生まれ変わった男がもうすぐくるのではないかという淡い希望と・・・
七尾百合子
願望と渇望に酔っていくと同時に陽の光が彼女を襲う
七尾百合子
しかし、苦手なはずの太陽の日差しは寧ろ、彼女の心を嘘で満たし始める
七尾百合子
もう男など要らないのではないかと・・・
七尾百合子
その気持ちはいつしか混ざり合い・・・
七尾百合子
限りない時間を待たせ続けた男に対する怒りと憎悪へ変わった時
七尾百合子
たがが外れ、化け物はより化け物らしくなっていった・・・
七尾百合子
もう戻れないとわかっている
七尾百合子
変異したあの日から戻れるはずなどなかったのだ
七尾百合子
貴方を失ったあの日から・・・
七尾百合子
黒に染まったその花は・・・
(台詞数: 50)