私を形成する祈りというもの
BGM
smiley days
脚本家
mayoi
投稿日時
2015-09-23 23:29:23

脚本家コメント
確かめたくなったのです。貴方が何を学んだかを。
この運命がもたらしたものを。

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七尾百合子
あれから8ヶ月。
七尾百合子
貴方の蒐集癖は直りませんでしたね。
七尾百合子
少しは、世界が広がりましたか。見えるものが変わりましたか。
七尾百合子
その様子を見る限りでは、結果は芳しくないようですが。
七尾百合子
ショーペンハウアーの『余録と補遺』にはある男が登場します。
七尾百合子
彼は驚くほどたくさんの本を読み、あらゆる知識を吸収しました。
七尾百合子
裕福な家庭に生まれ不自由なく、暇さえあれば本を読んだのです。
七尾百合子
そして、死にました。
七尾百合子
ここでひとつ質問です。
七尾百合子
彼はその生涯において何を為したのでしょう。
七尾百合子
家族を養うでもなく、蓄えた知識を活かすでもなく。
七尾百合子
……この質問は意地が悪い。しかし。
七尾百合子
貴女は気付いていましたか。
七尾百合子
本を読み、読み続け、動作が緩慢になっていくことに。考えることができなくなる自分に。
七尾百合子
……それでも読み続けるのですね。
七尾百合子
貴方の望みは麻薬常習者と似ている。
七尾百合子
薬物がもたらす悲劇を彼らは知っている筈です。死ぬかもしれないということも。
七尾百合子
それでも彼らは飲み込む。緩やかな自殺ですよ。
七尾百合子
まるで自分の命を麻薬に委ね、死が彼らを選ぶどうかを試すような。
七尾百合子
貴方の手首にある傷痕。
七尾百合子
本当に死ぬつもりだったらもっと深く刻むべきです。なのに貴方はそうしない。
七尾百合子
きっと、「かもしれない」に委ねたのでしょう。
七尾百合子
生死の境をさ迷う程度の傷で。試すように。
七尾百合子
貴方はそうやって、自らの生死にすら責任を持とうとしない。
七尾百合子
……私は悲しいです。
七尾百合子
どうして貴方はそれほどに無責任なのですか。
七尾百合子
人の命など所詮その程度だと笑いながら、混濁する渦へと身を投げる。
七尾百合子
そこに貴方の責任は存在しないかのように。
七尾百合子
……卜部という古代の職業について。
七尾百合子
魏志倭人伝に記述があるのです。
七尾百合子
倭人が海を渡るとき、その船には必ず1人の卜部が乗せられる、と。
七尾百合子
彼の役割は祈ることです。
七尾百合子
閉ざされた船室内で身を清め、旅が終わるまで安全を祈り続けるんです。
七尾百合子
そして無事に辿り着くことが出来れば、彼はそれに見合った報酬を受け取ります。
七尾百合子
ですがもし災害が起きたら。
七尾百合子
それは彼が祈りを怠ったために起きた災害です。
七尾百合子
その為、彼は罰として殺されるのです。
七尾百合子
馬鹿馬鹿しいと思うでしょう。
七尾百合子
しかし当時の人は信じていたのです。人の祈りは災害をも打ち砕くと。
七尾百合子
貴方はどうですか。貴方の祈りにはそれほどの力があると思いますか。
七尾百合子
生命の神秘すら超越すると考えますか。
七尾百合子
……無理でしょう。臆病な貴方には。
七尾百合子
貴方が感じる生命のわずかな質量でさえ、今の貴方には支えることができない。
七尾百合子
ですが、皮肉ですね。
七尾百合子
それは悟りへの第一歩なんです。
七尾百合子
……今日はここまでにしておきましょうか。
七尾百合子
私から全てを伝えるのは本意ではありません。
七尾百合子
貴方自身で考えてほしいのです。貴方を形成する祈りというものの正体を。
七尾百合子
それではまたいつか、会う日まで。

(台詞数: 49)