七尾百合子
「……ああっ!?もうっ、どうして暗号を解かずに食べちゃうんですか!?」
七尾百合子
百合子の叫ぶ声で、はたと我に返った。
七尾百合子
雑多な用件を終え、イベントが順調か顔を出し、心地よい休日出勤の疲労感を得て帰社。
七尾百合子
百合子が差し出した箱の蓋を開け、一目見て確認し、疲労回復のために摘まんで口にした。
七尾百合子
……たぶん百合子は、俺が指を伸ばした瞬間から叫んでいたのだろうが……
七尾百合子
それなりに熱量を欲していた俺の脳には届かなかったらしい。……美奈子の影響もあるのだろうか。
七尾百合子
……几帳面に、左列の三粒から無事腹に格納したところで、百合子の声と顔を認識した。
七尾百合子
「……」
七尾百合子
「……助手の私が、チョコに文字書いた……」
七尾百合子
「プロデューサーさんったら、読まずに食べた……」
七尾百合子
勝手に、俺までヤギに脳内変換しないでほしい。これでも人間の端くれだ。
七尾百合子
「プロデューサーさん!!今日のことは、流石に尊敬する貴方でも許せませんよ!」
七尾百合子
「私が一生懸命考えた、暗号という『作品』を、無下にして世界から失わせるなんて!」
七尾百合子
「分かっているんですか!物語は書かれることではなく、読まれることで存在できるんです。」
七尾百合子
「書かれなかった物語は、いつか生み出されるかもしれません。来世とか平行世界も含めて。」
七尾百合子
「でも、創られたけど読まれなかった物語は……ノイズに呑み込まれるラジオの音楽みたいに、
七尾百合子
日常の雑踏や、ほかの誰かの物語に埋められてしまうんです。誰も気づけないんです。」
七尾百合子
「私が書いた今回の『物語』は……貴方が解いて認識しないと、意味が無いんです。」
七尾百合子
……百合子の地の頭はかなり良い。そこに知識が上乗せされるから、かなりのものだ。
七尾百合子
だから時々、俺を試すかのようにこんな仕掛けをしてくる。
七尾百合子
……まあ、出し抜けに食べてしまった俺にも非は有るが……
七尾百合子
……まあ、出し抜けに食べてしまった俺にも非は有るが……百合子、今回の『謎』は出来が悪いぞ。
七尾百合子
たった十一文字のアナグラムなんてすぐに看破できるし。
七尾百合子
……だいたい百合子、お前はチョコの書斎で、『正解』を書いて見せつけていたではないか。
七尾百合子
……
七尾百合子
……ふうっ、と、俺は大きな溜息をつく。
七尾百合子
慰めの言葉をかけるのは簡単だ。でもそれは、湿っぽくて有りがちな展開でつまらない。
七尾百合子
ならば、非行の『代償』として、このチョコ並みに甘いセリフでも言うのが妥当か?勘弁してくれ。
七尾百合子
俺は残ったチョコを取り出し、ひとつは立てて、二つは裏返して、収めなおした。
七尾百合子
◻︎
七尾百合子
◻︎ SAY
七尾百合子
◻︎ SAY ME T○○
七尾百合子
「……」
七尾百合子
「……もう。出題者の意図を超えた回答をするなんて、ズルイです。」
七尾百合子
立てたチョコが「I」に見えるかは微妙だと我ながら思う。
七尾百合子
意思を汲み取ってくれた百合子に、救われたようなものだ。まあ、「愛」が有る故にだろう。
(台詞数: 36)