百瀬莉緒
……若い女の子が来るなんて、珍しいわね。普段はオジサマからお爺さんまでが多いのに。
如月千早
ええ。私もこんなところに自分が来るなんて想像してませんでした。
如月千早
……春香が、あんな風になるまでは。
百瀬莉緒
まあ、立ち話もなんだから入って。他人に聞かれたい話でもないしね。
如月千早
はい……お邪魔します。
百瀬莉緒
……こんな片田舎の裏通りに来るってことは、『私が何者か』はご存知よね。如月千早、さん。
如月千早
……なんで私の名前を……
百瀬莉緒
暇潰しにテレビを観てれば、千早ちゃんも春香ちゃんも分かるわよ。人気絶頂のアイドルでしょ?
如月千早
そうです。私と春香はアイドル。同じ事務所の同僚で……無二の親友です。
如月千早
……そして貴女が、ドクター・リオ。どんな瀕死の患者も蘇らせる、無免許の名医……
如月千早
でもそれすら、世を忍ぶ仮の姿。本当は、人の寿命を別の人に移し替える、呪術医!
百瀬莉緒
私も有名になったものね。そろそろ引越し時かしら。
如月千早
……
如月千早
……春香は、三日前から昏睡状態に陥ってます。まだ、マスコミに知られてはないですが。
如月千早
……可哀想な春香。私と一緒にひたすらアイドル活動に打ち込んで来て、こんな事になるなんて。
如月千早
……ファンやプロデューサーのために、体調不良でも休むことはできないよ、なんて言って。
如月千早
運び込まれた病院で……余命数週間、そう宣告されました。
百瀬莉緒
事情は分かったわ。……自分の寿命を、春香ちゃんに譲りたい。そう言いたいわけね。
如月千早
……私には歌しか有りません。歌えること自体が喜びで、それが叶っているなら満足です。
如月千早
でも、春香はきっとそうじゃない……美味しいお菓子、素敵な恋愛、子供を育てること……
如月千早
きっと、これからもやりたい事が沢山ある筈です。まだ、終わりを迎えちゃ駄目なんです。
如月千早
もちろん、相応の報酬はお支払いします。私が得て来た、全てを捧げます。
百瀬莉緒
貯金通帳……あわせて10桁は入っているわね。
如月千早
私にとっては、歌えることこそが報酬。お金にも物にも執着は無いので、遣うことが無くて……
如月千早
でも、今はそんな自分の淡白さが嬉しいんです!春香のために、遣うことができますから。
如月千早
お願いです、私の寿命を30年分、春香に譲ってください!
如月千早
それだけ有れば、子供を育て結婚まで見届けるとか、大抵の夢は叶うでしょうから。
百瀬莉緒
……
百瀬莉緒
……残念だけど、それはムリね。引き受けられないわ。
如月千早
そんな!……それだけの額で不足ですか!?
如月千早
それじゃあ、10年分をお願いします。アイドルを続けるにも辞めるにも、それ位の時間は……
百瀬莉緒
それもダメ。諦めてちょうだい。
如月千早
くっ!……私がアイドルして得てきた物すら、否定されている気持ちに……
如月千早
せめて一年間、いや、ひと月だけでも……私、まだ春香と話し尽くたいことも有るんです。
百瀬莉緒
……千早ちゃん。貴女が春香ちゃんのことを深く思っているのは、よく分かるわよ。
百瀬莉緒
でも、引き受けられないものは引き受けられないの。納得して、なんて言えないけど。
如月千早
いい加減にしてください!数十億円の報酬でも不足なんですか!貴女はどれだけ強欲なんですか!
百瀬莉緒
……
百瀬莉緒
……別に、貴女の通帳の残高が不足してるわけじゃないわ。むしろ魅力的な依頼よ。
百瀬莉緒
不足してるのは千早ちゃん、貴女の寿命の残高。たぶん貴女の残り寿命は、あと……
(台詞数: 40)