永吉昴
『図書館から出た百合子さんは、まっすぐ家には帰りませんでした。』
七尾百合子
雨、ですか……。
永吉昴
『外はじっとりとした雨が降り、百合子さんは傘をさし、図書館の周りを歩いてみました。』
永吉昴
『この雨を見てると、どうしても あのライオンが泣いているように思えてしまい、』
永吉昴
『自然と足が早くなっていきました。』
永吉昴
『百合子さんは車の下や、植え込みの向こうを覗いて見たり、』
永吉昴
『よその家の裏庭や、ゴミ置き場、木の上も調べてみましたが、やはりライオンは見つかりません』
七尾百合子
(こんな事になるなら、貸出カードをつくらせておくべきでした。)
七尾百合子
(そうすれば、明記したのを元に、そこへ訪問すればいいだけですし……。)
永吉昴
『そんな事を思う百合子さんでしたが、ライオンに住所なんてあるのでしょうか?』
永吉昴
『そもそもライオンが、前足を使って文字を書けるのでしょうか?』
永吉昴
『もし出来たのなら?と想像すると少し面白いなと思い、頬が緩みました。』
永吉昴
『……百合子さんは、近所をぐるっと周って、また図書館に戻ってきました。』
永吉昴
『すると、図書館の前にライオンが座っていました。』
永吉昴
…………
永吉昴
『ライオンは、入り口の扉を見つめています。』
永吉昴
『ずっと雨にうたれていたのか、ご自慢の大きなたてがみは、濡れて下を向いています。』
七尾百合子
…こんばんは、ライオンさん。
永吉昴
『百合子さんは声をかけましたが、ライオンは振り向きません。』
七尾百合子
あの…、ご存知ないかもしれませんが、図書館の決まりが変わったんです。
永吉昴
『ライオンは、変わらず入り口の扉を見つめていますが、百合子さんは話を続けます。』
七尾百合子
【大声でほえてはいけない。】
七尾百合子
【大声でほえてはいけない。ただし、ちゃんとした訳があるなら別。】
七尾百合子
つまり、その、怪我をした友達を助けようとする時など。って事ですよ。
永吉昴
!!
永吉昴
『ライオンの耳が ぴくっと動き、百合子さんに振り向きました。』
七尾百合子
私は決まりが変わりましたと言うことだけ、お伝えしに来ました。
七尾百合子
今日は、もう閉館時間です。
七尾百合子
明日、またご来館ください!
永吉昴
『百合子さんは、ライオンに一礼すると、歩いて帰っていきました。』
永吉昴
『シーン7に続く』
(台詞数: 31)