エミリー
わ、私としたことが……不覚でした。無念です。
七尾百合子
どうしたの?エミリーちゃん。そんな深刻な顔して。
エミリー
私……私……。「水無月」を忘れてしまっていたのです。恥ずべきことです。
七尾百合子
え?確かにもう7月だけど、何か大事な用事を忘れてたの?
七尾百合子
一周年ライブもあって、充実してたと思うけどな。あんな煌めく光景、私初めてだったよ。
エミリー
ええ。仕掛け人様が導いてくださった、一周年記念の歌舞公演は素晴らしいものでした。
エミリー
その後も、花嫁修業をさせていただきましたし、佳き月であったと思います。
七尾百合子
ウェディング姿の撮影だけなら、花嫁「修業」とは言わないよ……そんな妄想してたんだ。
エミリー
……わ、私としたことが……恥ずかしいです。
七尾百合子
でも、それならなおさら不思議だよ。六月は、思い出深い一ヶ月だったんだよね?
エミリー
ですから、暦の水無月のことではなく……
エミリー
和菓子の「水無月」を頂くのを、失念していたのです。
七尾百合子
和菓子?
エミリー
はい。「水無月」は、三角に切り分けられた外郎(ういろう)で、上に小豆が載っています。
エミリー
下の外郎(ういろう)は、氷室の氷、すなわち冬に池から切り出し、保管された氷の見立てで……
エミリー
貴族の贅沢品である氷は手に入らない庶民が、代わりに外郎(ういろう)を選んだのです。
七尾百合子
小豆は、日本で悪霊祓いの力が有るとされていたから、「水無月」のもそういう意味?
エミリー
流石、百合子さん、よくご存知ですわ。
七尾百合子
でも、今見たら、そこの和菓子屋さんで今も売ってるよ?買って食べたらいいんじゃないかな?
エミリー
いえ、百合子さん。「水無月」はそもそも、夏の大祓(おおはらえ)に頂くもの。
エミリー
半年の穢れや罪を清める神事のものです。6月30日その日と言わなくとも、6月中でなければ。
七尾百合子
それなら、大丈夫だと思うよ。だって、まだ旧暦なら6月だもの!
エミリー
……百合子様!良い事を教えていただき、ありがとうございます!一年悔いを残さず済みそうです。
七尾百合子
エミリーちゃん、大袈裟なんだから。
エミリー
では早速。いただきます。モチュモチュ……
エミリー
ああ、決して甘すぎない奥ゆかしい外郎(ういろう)と、粒を殺さず炊かれた小豆が、絶品ですぅ。
七尾百合子
エミリーちゃん、前々から思ってたんだけど……
エミリー
なんですか?百合子様。
七尾百合子
和菓子を食べる時、普通はお箸じゃなくて、「黒文字」を使うんじゃないかな?和風フォークの。
エミリー
わ、私としたことが……恥ずかしい……
(台詞数: 30)