夜に紡ぐ
BGM
瞳の中のシリウス
脚本家
mayoi
投稿日時
2014-04-16 23:12:08

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七尾百合子
………………
ジュリア
お、ユリじゃねーか。何やってるんだよ
七尾百合子
……ああ、ジュリアさん
七尾百合子
別に……なんでもありません。
ジュリア
その顔で「なんでもない」はないだろ
七尾百合子
………………
七尾百合子
……昨晩、飼っていた犬が亡くなりました
七尾百合子
数日前から体調がおかしかったんです。お腹の周りに水が溜まってて
七尾百合子
お医者さんにも連れていったけど……もう手遅れだって。水を抜いたらすぐ死んじゃうんだそうです
七尾百合子
私は何もしてあげられなかった……!あの子を助けることも、苦しみを和らげることも!
ジュリア
それは……大変だったな
七尾百合子
それからはドッグフードではなく、好物の食パンをあげました。喜んでくれるのが嬉しくて
七尾百合子
でもすぐに吐き出しちゃうんです……いえ、その頃はまだマシでした
七尾百合子
パンを見せても、起き上がることも出来なくなった、あの時と比べたら……!
七尾百合子
見てください、この写真。毛虫の匂いを嗅ごうとして鼻が腫れちゃった時のです
七尾百合子
ふふっ、マヌケな顔してますよね。これ、携帯の壁紙にしてるんですよ
七尾百合子
なのに……なんで。あんなに元気で……元気すぎるくらいで……
ジュリア
………………
七尾百合子
……知ってますか?ペットの火葬では骨を拾わないことを
七尾百合子
元々、骨を燃やすなんて難しくない。納骨は、故人が遺したものを拾う遺族の為でもあるんです
七尾百合子
なら、何故あの子は全部燃やされてしまったんですか?あの子は何も遺せなかったんですか?
七尾百合子
教えてください!どうして何も残ってないんですか!
七尾百合子
私が感じる、空っぽは……何で埋めたら良いんですか……
ジュリア
……その辺にしときな
七尾百合子
あ……ごめんなさい。いきなりこんな、迷惑ですよね
ジュリア
そんな意味で言ったんじゃねーよ
ジュリア
……ユリ、本を書きな
七尾百合子
え、どういう事ですか……?
ジュリア
何も残ってないなんて嘘だ。ユリの中にちゃんとあるだろ
ジュリア
それを形にしろって事だよ。死んだものの口から物語を紡ぎ出せる唯一の職業、作家でな
七尾百合子
でも……私側とジュリアさん側でシンメトリーだった世界は、あの子の分だけズレてしまったんです
七尾百合子
ほら、私側の世界は邪魔なものばかりで……夜空も見えない。こんな私に、出来るでしょうか
ジュリア
だからそれを、そいつが生きてきた意味に変えりゃいいんだよ
七尾百合子
私が……あの子の生の意味を……
ジュリア
大勢の奴らに理解されるより、大勢に理解されない1人を救う。
ジュリア
痛みを知ってる、ユリなら出来るはずだ。同じように苦しんでる奴を、分かってやれる
ジュリア
……ああ、そうだ。ついでにこれをやるよ
七尾百合子
これは……CD?
ジュリア
エリック・クラプトンの『Change the World』だ
ジュリア
もしこの先、また辛いことがあったら、この歌詞を読みな。あたしからのメッセージだ
七尾百合子
結構、年季が入ってますね。貰っていいんですか?
ジュリア
もう飽きるほど聴いたからな。これからはあたし自身のロックを探すんだ
ジュリア
そういや、その犬の名前はなんて言うんだ?
七尾百合子
「マミ」です。真実と書いて、まみ。
ジュリア
へえ、良い名前じゃないか
ジュリア
……それに、英語なら「Truth」ってとこか。これだから偶然ってやつは面白い
七尾百合子
あの、今日はありがとうございました!話を聞いてもらって……CDも大切にしますから
ジュリア
ああ。いつか、歌詞読むの忘れるなよ?
七尾百合子
はい、必ず。アイドルも作家も立派にやり遂げてみせますから!

(台詞数: 49)