七尾百合子
………………
七尾百合子
………………昴さん。
永吉昴
…………何?
七尾百合子
別に無理して付き合ってくれなくても良いですよ。私が勝手に帰らないだけですし。
永吉昴
……………………………………………………別に。
七尾百合子
………………昴さん。
永吉昴
…………何?
七尾百合子
河があります。
永吉昴
うん。
七尾百合子
河には橋が架かっていて、一方通行です。向こう岸に行ったら二度と戻ってこれません。
永吉昴
…………何でさ。
七尾百合子
橋の向こうには女の子が一人で居ます。女の子のまわりには丸く白線が引かれていて……
七尾百合子
そこだけが、女の子のエリアです。あちらからはこちらの様子を見ることしか出来ません。
永吉昴
……寂しくないのかな。
七尾百合子
そう思うなら昴さん。橋を渡ってその子の元へ行ってあげられますか?
永吉昴
……それが百合子なの?
七尾百合子
……今は違います。今私は昴さんの隣に居ます。居ますよね?
永吉昴
うん…いる、いるよ。
七尾百合子
でも、もうすぐ夜が来ます。夜が来るとその女の子が実は私だった事に気づくんです。
七尾百合子
見てる物や隣にいる人が本当は物凄く遠い事に気づくんです。向こう岸から私は見えません。
永吉昴
……………………何で。
七尾百合子
橋はこちらからの一方通行です。でも女の子の気持ちはあちらからの一方通行です。
七尾百合子
夜が来ます。どんどん暗くなって、女の子は向こう岸が見えなくなります。あとは自分だけです。
永吉昴
………………何で?
七尾百合子
今私はここにいて、でも河の向こうにいるつもりで。周りが見えなくなってるつもりです。
七尾百合子
私はどうしたら、隣にいる昴さんに気づけるんでしょう?
永吉昴
……………………
七尾百合子
…………昴さん、今日は手を繋いでくれないんですか?
永吉昴
………………お互い離れられなくなっちゃうよ。今は良くても、夜は二人とも一人だろ。
七尾百合子
………………今日の昴さん、優しく無いです。ちょっとだけ嫌いかもです。
永吉昴
…………うん。
永吉昴
百合子、オレも夜は怖いよ。皆がいることは知ってても、夜は全部嘘だもん。
永吉昴
夜は皆橋の向こうにいるんだよ。それぞれ別の白線の中にいるんだ。
永吉昴
皆、自分以外は一緒にいると思ってる。夜は橋のこっちがわが嘘なんだよ。
七尾百合子
昴さん……、結構メルヘンなんですね。
永吉昴
……今、オレもちょっとだけ百合子の事嫌いになったかも。
永吉昴
……百合子、今はもう、なんか信じられないけど、多分明日になれば夜は終わってるから。
永吉昴
明日、プロデューサーに聞いてみようぜ。大人なら全部教えてくれるだろ。
永吉昴
だから今日は帰ろ。百合子、いなくなると困る人、いるからさ。帰ろうよ。
七尾百合子
…………明日になったら、手繋いでくれるなら。
永吉昴
…………約束、約束するから。ここにいたら、もう夜から逃げられないって。
七尾百合子
……昴さん、街から音が無くなって行きます。皆が橋を渡って行きます。
永吉昴
百合子もオレも酔ってるだけなんだよ。夜とか、自分とか、お互いに。
永吉昴
明日になったら、この会話も絶対恥ずかしくなってて、お互い顔見れなくなってるって。
七尾百合子
……昴さん、なんででしょう?今日の事、私忘れたくないです。何故なんでしょう?
永吉昴
…………それ、さっき答えたよ。
七尾百合子
……明日大人に聞くのはいいですけど、今から話すことだけは、二人だけの秘密にしてくれますか?
永吉昴
………………うん。何?
七尾百合子
………………多分、今日の今しか言えません。
七尾百合子
耳、貸して下さい。
(台詞数: 50)