矢吹可奈
息が上がる
矢吹可奈
このドクドクドクドクという重低音が
矢吹可奈
自分の中で鳴っているのか、スピーカーから流れてくるのか区別がつかない
矢吹可奈
「春香ちゃああああん!」
矢吹可奈
叫んだ
矢吹可奈
ステージで踊る、あの人に届くように
矢吹可奈
ドクドクドクドク
天海春香
「うしろの人も、ちゃああんと見えてるからねー!」
矢吹可奈
うん、知ってるよ……
矢吹可奈
だって!私からも、ちゃああんと見えてるもん!
矢吹可奈
そう……、あれは小学校低学年の頃
矢吹可奈
歌う事が大好きだった
矢吹可奈
でも音楽の時間、歌のテストのとき
矢吹可奈
変な歌い方だって、男の子に笑われて
矢吹可奈
なんだか悲しくって、ポロポロ泣いてしまった
矢吹可奈
でもその時、梶原先生が「昼休みにおいで」って言ってくれて
矢吹可奈
歌のテスト、もう一回させてくれたんだ。たった1人だけの「赤とんぼ」。
矢吹可奈
口はめいっぱい広げて。体もゆっくり、大きく揺らして。
矢吹可奈
だって、梶原先生がそう教えてくれたから。
矢吹可奈
そしたら、先生「よくできました」って、ニコッと笑って、大きな花マルくれたから
矢吹可奈
歌うのが、ますます好きになった。
矢吹可奈
小学校高学年に上がると、音楽の先生は加藤先生になった
矢吹可奈
その頃、クラスで合唱する時間がちょっと苦手だった
矢吹可奈
だって、まわりの声につられて、自分のパートがよくわからなくなるじゃん?
矢吹可奈
それでも、加藤先生は熱心に指導してくださって
矢吹可奈
最後には「矢吹さんの声は実に独創的で、オリジナリティがあっていいわ」なんて豪快に笑って
矢吹可奈
歌の途中に入るソロパートを任せてくれたんだ
矢吹可奈
その時は「オリジナリティ」ってなんなのか、正直よく分かって無かったんだけどね
矢吹可奈
中学の音楽専科の原田先生は、少し厳しい先生だった
矢吹可奈
相変わらず周りにつられて音程が迷子になる私は、何度も居残り練習させられた。
矢吹可奈
ちょうどその頃、あの人に出会った
矢吹可奈
テレビの中、雑誌の中、そしてステージで歌う姿に、どんどん惹かれて……あの人になりたいって…
矢吹可奈
そう思うんです!って原田先生に打ち明けた
矢吹可奈
そしたら、キョトンとした顔をした後、大きな声で笑い出した
矢吹可奈
こんなに笑われるなんて……とショックを受けていたら
矢吹可奈
「そりゃああいい。矢吹にピッタリだ!」と言って、知り合いのトレーナーさんを紹介してくれた
矢吹可奈
これはあとから知った話だけど、どうやら、先生も春香ちゃんのファンだったらしい。
矢吹可奈
その紹介のツテで、今のスクールに通うことになったんだ。
矢吹可奈
そこからは……アイドルとして、歌のレッスンにダンスのレッスン、本当に大変だった
矢吹可奈
アイドルなんてもう辞めよう……って思った
矢吹可奈
だけど、それを引っ張りあげてくれたのが……春香ちゃんだった
矢吹可奈
こんな私を……必要だって言ってくれた……
矢吹可奈
「過去の延長線上に『今』がある」「『今』の延長線上に未来があるって」教えてくれた……
矢吹可奈
わたしの延長線上に、きっと春香ちゃんがいるって……そう思った
矢吹可奈
でも、それも違った
矢吹可奈
だって今私の隣には
天海春香
「ほら、可奈ちゃん!次の曲!!」
矢吹可奈
ドキドキは今も鳴り止まない
矢吹可奈
聞いてください
矢吹可奈
聞いてください「オリジナル声になって」!!
(台詞数: 50)