高山紗代子
ブーツの紐を結ぶ。
高山紗代子
左ひざをついてまずは右足。
高山紗代子
次に右ひざをついて左足。
高山紗代子
キュッと結んだら、ポンと叩いて立ち上がる。
高山紗代子
続いてグローブ。
高山紗代子
本番まで汚したくないからと、外して腰につけていた。
高山紗代子
改めて手に取ってよく見てみる。
高山紗代子
……うん。大丈夫。
高山紗代子
もう一度腰につけて、お次はリストバンド。
高山紗代子
赤と青。
高山紗代子
どちらも熱い炎の色。
高山紗代子
そして何より、混ぜれば紫。私の色だ。
高山紗代子
両手首に通してじっと見る。
高山紗代子
……よしっ!
高山紗代子
掛けておいたフード付きのジャケットを羽織る。
高山紗代子
白い布地に青の線。
高山紗代子
胸元のバッジには765の文字とと燃えるハート。
高山紗代子
ボタンは閉めずに羽織るだけ。
高山紗代子
中に着ているのは赤いシャツ。
高山紗代子
普段はつけないネクタイをかけている。
高山紗代子
ネクタイも赤と青。そして時々白。
高山紗代子
首をぐるんと回して天井を見上げる。
高山紗代子
……音が聞こえる。
高山紗代子
いや、ずっと聞こえていた。
高山紗代子
ステージに響く透き通った歌声。呼応する歓声。
高山紗代子
ぶるりと身震いする。
高山紗代子
……自然と口元から笑みがこぼれた。
高山紗代子
ペットボトルに刺さったストローをくわえる。
高山紗代子
口から喉、そして体の奥底へと冷たい水が落ちていく。
高山紗代子
……いける。
高山紗代子
机の上のリボンを手に取る。
高山紗代子
おでこよりもかなり上でぐるりと回して右耳の裏あたりでギュッと結ぶ。
高山紗代子
ステージではラストのサビが流れ始めた。出番は近い。
高山紗代子
最後のチェックだ。
高山紗代子
ブーツ、ジャケット、リボン。
高山紗代子
腰に掛けておいたグローブにゆっくり手を通し、一度、二度、手を握る。
高山紗代子
……今日で何度目のステージだろう。
高山紗代子
いつもの劇場、いつもの舞台。
高山紗代子
だけど、一度たりとも同じステージはなかった。
高山紗代子
客席から拍手が巻き起こる。
高山紗代子
私は椅子から立ち上がり、眼鏡をとった。
高山紗代子
ステージから百合子が歩いてくる。
高山紗代子
私は手を上げた。百合子も同じように手を上げた。
高山紗代子
そして、すれ違いざまにハイタッチする。
高山紗代子
行こう、私のステージに。
高山紗代子
同じステージなんてない。いつだって進化し続けるんだ。
高山紗代子
毎回違うステージなら、いつだって初めてのステージ。
高山紗代子
そう、たった一度きりの、オンリーワンなファーストステージ。
高山紗代子
「……いってきます」
高山紗代子
今、私の、高山紗代子のステージが始まる。
(台詞数: 50)