サクラ サケ
BGM
vivid color
脚本家
nmcA
投稿日時
2017-04-16 23:50:36

脚本家コメント
さぁ、咲き誇れ

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高山紗代子
「ほわぁ……」
高山紗代子
ため息ともに、思わず変な声が出た。
高山紗代子
道の両側は一面薄桃色。空の爽やかな青と相まって、より彩り鮮やかに見える。
高山紗代子
桜を見上げながらゆっくり歩く。風に吹かれた桜の花は気ままに揺れている。
高山紗代子
真ん中ほどまで歩いて、くるりと振り向いた。空を見上げると飛行機雲が花から花へと渡っている。
高山紗代子
スマホを掲げて写真をパシャリ。衣替えを済ませたスズメが写り込んで面白い一枚になった。
高山紗代子
カメラをオフにしたところで、今の時間に気付く。私は慌てて駆けだした。
高山紗代子
今日は事務所の採用オーディション。夢をかなえるための第一歩となる日だ!
高山紗代子
「うん。今までで一番良かったかも。上手くアピールできたよね」
高山紗代子
脳内で今日の振り返りをしながら小さくガッツポーズをとる。練習の成果が出るとやっぱり嬉しい。
高山紗代子
歌はうまく歌えたし、ダンスもミスはなし。自己アピールだってよくできた。
高山紗代子
順番も幸いした。一つ前の子が本調子じゃなかったせいで、随分とリラックスできた気がする。
高山紗代子
オーディション前に「一緒に頑張ろうね」って言ってくれたから、申し訳ないなとも思う。
高山紗代子
でも、これはオーディション。正々堂々の真剣勝負に手加減なんてしちゃダメだ!
高山紗代子
気合を入れた私の顔に涼しい風が吹き付ける。桜の花が一斉にさざめいた。
高山紗代子
今週末には花見が楽しめそう。その時には嬉しい知らせが届いていると良いな。
高山紗代子
「……。」
高山紗代子
雨が降っている。私は桜並木の遊歩道で傘を差し、ただただ地面だけを見て歩いていた。
高山紗代子
事務所の前の掲示板。色とりどりの傘。張り出された結果。落胆の声に交じって上がる歓声。
高山紗代子
喜ぶ子へ視線を送る。母親の胸に顔をうずめてよく見えないが、間違いなく私の前にいた子だ。
高山紗代子
……私が負けていた?ううん、そんなことはない。歌もダンスも全部私のほうが勝っていた。
高山紗代子
理解が結果に追いつかない。色鮮やかだった周囲の傘が徐々にモノクロへと変わっていく。
高山紗代子
事務所の窓に動くものをみた。なんだろうと目を凝らす。人が二人、握手、渡しているのは……
高山紗代子
……気付けば、私は遊歩道を歩いていた。雨脚が強くなる。ひとつ、ふたつと桜の花が落ちてきた。
高山紗代子
努力は報われるって信じてる。努力だけじゃ叶わないものもあるって知っている。でも……
高山紗代子
傘が手から滑り落ちる。眼鏡に当たる水滴で視界が徐々に滲んでくる。
高山紗代子
それでも、地面に落ちて薄汚くなった桜の花びらだけは、なぜかくっきりと目に入ってきた。
高山紗代子
「はぁ……」
高山紗代子
ため息ともに、気の抜けた声が出る。
高山紗代子
昨日の雨で少し桜は散ってしまった。それでも、花を愛でるには充分な量は残っている。
高山紗代子
私は一枚の封筒を持ってベンチに座っている。明日受ける予定の小さな事務所のオーディション。
高山紗代子
一昨日までの私なら一も二もなく受けていた。でも、今の頭に思い浮かぶのは……
高山紗代子
じっと足元を見る。薄桃色がすっかり薄れてしまった花々が、泥まみれで地面にこびりついている。
高山紗代子
どうして桜は咲くのだろう。ふと、そんなことを考えた。
高山紗代子
咲けば散る。それは分かりきっていること。咲かなければ散って、汚れて、踏まれることもない。
高山紗代子
それでも桜が咲く理由って……
高山紗代子
もう一度、桜をよく見ようと私が顔を上げた瞬間、風が強く吹いた。
高山紗代子
私はギュッと目を閉じた。そして、そっと目を開き
高山紗代子
私はギュッと目を閉じた。そして、そっと目を開き……言葉を失った。
高山紗代子
水面のよう青い空の上に、幾重もの桃色の花びらが太陽の光を受け、広がり、舞っていた。
高山紗代子
その色、動き、輝きは決して受動的なものじゃなくて、大きな意志みたいなものを感じた。
高山紗代子
散ることなんか気にしていない、ただ一つ、この空に咲き誇るんだという意志を……。
高山紗代子
風が止み、青空が返ってくる。手元に目を落とすと封筒にはたくさんの花びらがくっついている。
高山紗代子
……私は力強くこぶしを握り締めた。
高山紗代子
私はあの子と約束したんだ。私は、一流のアイドルとして咲き誇りたい。
高山紗代子
だったら、何があったとしても、私にできることは一つしかない。
高山紗代子
大きく息を吸い込む。少しだけ雨のにおいが混じっているが気にしない。
高山紗代子
「よーし、やるぞーーー!」
高山紗代子
遊歩道に、桜に、青空に私の声が響き渡る。私はベンチから立ち上がり、一歩前へと歩き出した。
高山紗代子
空を見上げる。桜を渡る飛行機雲に沿うように、スズメが一羽、飛んでいった。

(台詞数: 50)