高山紗代子
〇月×日。少しずつだけど、ステージに立つのも慣れてきた。
高山紗代子
今日は、アイドルらしく派手目のメイクに挑戦!の、つもりだったんだけど…。
高山紗代子
…口紅の色が思ったよりきつくて、しかもラメ入りだったの。
高山紗代子
買う前に試せば良かったと思うけど、店員さんに「もっと大人しい色が」って言われそうだし…。
高山紗代子
とりあえず色のサンプルだけ見て、解ってるって顔で買ってきたのが大失敗。
高山紗代子
案の定、塗ってみたら、唇がすごくキラキラしちゃって。
高山紗代子
試行錯誤しているうちに、劇場の開演時間が迫ってきたから、慌てて更衣室を飛び出しちゃった。
高山紗代子
そうしたら、劇場の廊下で知らない男の人にぶつかりそうになって、急ブレーキ!
高山紗代子
急いでたから、謝ってそのまま通り過ぎようとしたんだけど、そこで男の人に呼び止められた。
高山紗代子
『可愛い唇をしてるのに、それでは台無しだよ?』
高山紗代子
そんなことを言われた気がする。少なくとも、「可愛い」だけは間違いなく覚えてる。
高山紗代子
男の人に可愛いなんて言われたのは初めてだったから、私、頭が白くなっちゃって。
高山紗代子
その隙に、男の人はハンカチで私の唇を、とんとんって、優しく押し付けるようにしてくれた。
高山紗代子
何か親切にしてくれたんだって思ったけど、頭がぐるぐるして良く解らない。
高山紗代子
時間が無かったから、その場は簡単にお礼だけ言って、ステージに向かうことにした。
高山紗代子
(※反省!お礼と謝罪は、どれだけ急いでいてもしっかりと!!)
高山紗代子
後でこの人が、私たちのプロデューサーになる人だって聞いて、驚いたなあ…。
高山紗代子
…結局、ステージに到着したのは私が最後だったけど、時間にはなんとか間に合った。
高山紗代子
そこで出会った恵美ちゃんは、私を見るなりご機嫌顔。
高山紗代子
『ハデな色なのに、うまく使いこなしてるじゃん。特にね、ラメの具合がバツグンにいいよ!』
高山紗代子
そんなふうに大絶賛されて、私は口紅のことを思い出した。
高山紗代子
舞台袖の鏡でチェックしてみたら、本当に恵美ちゃんの言う通り!
高山紗代子
余分な口紅が落ちて、下品じゃない程度にうっすらとラメが輝いてて…!
高山紗代子
自分が華やかになった気がして、今日のステージは、リラックスして臨むことができたの。
高山紗代子
…ここまでは、いい話。そして、ここからは、恥ずかしい話。
高山紗代子
ステージが終わって、あの男の人が新しいプロデューサーだって、みんなに紹介された。
高山紗代子
その後、私を綺麗にしてくれたお礼を言おうって、プロデューサーに会いに行ったのだけれど…。
高山紗代子
最初のうちは、自己紹介とか、他愛のない話で盛り上がって、雰囲気も良かったと思う。
高山紗代子
でも、デスクの上に、ハンカチが置いてあるのを見つけてしまって…。
高山紗代子
そこには、私の唇の…キスの形が、くっきりと写ってて…。
高山紗代子
そう気づいてしまったら最後。ハンカチ越しとはいえ、唇を触られたこととか…。
高山紗代子
…可愛いって言われたこととか。
高山紗代子
そんなことばっかり、頭の中に湧き出てきて。とっても恥ずかしくなって。
高山紗代子
特に、ハンカチに写ってるのが自分の唇の形だって、意識されたくないなって思って。
高山紗代子
とりあえず、ハンカチを汚したことにお詫びを言って、洗って返すからと言い繕った。
高山紗代子
プロデューサーは、こっちで洗うから大丈夫って笑ってたから、意識はされなかったと思うけど…。
高山紗代子
とにかくそれが礼儀だからって押し通して、なんとか借りてくることができた。
高山紗代子
でも、自分でわかるくらい顔を赤くしてたし、早口でまくしたてたから、変な子に思われたかも…。
高山紗代子
ああ、もう!考えるたびに恥ずかしい…!
高山紗代子
…今日は早めに寝ることにしよう。
高山紗代子
明日からは気持ちを切り替えて、プロデューサーにしっかりした私を見せなくちゃ!
高山紗代子
…でも、さっそく悪い知らせ。
高山紗代子
家に帰ってお母さんに相談してみると、この口紅はたぶん落ちないよって言われた。
高山紗代子
もしかすると、私のアイドルとしての初めての給料は、男物のハンカチに消えてしまうかも。
高山紗代子
ハリ子…。新しいおもちゃは、また今度。ゴメンね…!
高山紗代子
(追記。結局、口紅は落ちなかったので、ハンカチはまだ返せていない。どうしよう…。)
高山紗代子
(追記2。男の人向けのハンカチって、どんなのを選べばいいのかな?今度好みを聞いてみよう。)
高山紗代子
(追記3。このハンカチと口紅は、机の引き出しにしまっておくから。忘れないように!)
(台詞数: 48)