横山奈緒
金網の向こうの漆黒の巨鳥の咆哮が、大気を震わせる。
横山奈緒
タキシングで離陸地点に到達、準備運動の様にフラップをはためかせて
横山奈緒
一瞬、ぐん、と巨体を沈ませた直後、轟音はさらに音量を増す。
横山奈緒
最大出力発生、離陸開始。地表の湿った空気を切り裂きながら、異様な加速を見せ
横山奈緒
V1、VR、V2、急上昇をかけて瞬く間に、雲ひとつ無い虚空へと吸い込まれてゆく。
横山奈緒
「あんのアホンダラ、定時訓練で緊急要撃発進しくさってからに……」
横山奈緒
意気揚々と飛び立って行った三番機を追う様に、二番機、四番機が発進。先駆けを追う。
横山奈緒
まるで、待ちに待った彼とのデートにスキップしながら家を飛び出す乙女の様なはしゃぎ様だ。
横山奈緒
「ったく、つい三日前にいきなり意識無くして倒れた奴とは思えへんわ」
横山奈緒
タブレット上に映し出される三機の機体情報を確認。
横山奈緒
エンジン出力、正常。各所油圧、正常。各所応力、異常数値無し。
高山紗代子
「……………凄い迫力ですね」
横山奈緒
「………いつから其所に居ってん」
高山紗代子
「私、あの機体が実際に飛ぶのを見るの、初めてなんです」
横山奈緒
………昔からこうだ。
横山奈緒
彼女との会話は、噛み合わない。
高山紗代子
「奈緒さんは、一緒に飛ばないんですか?」
横山奈緒
「今日は地上監視だけや、です。あいつら叱り飛ば、指示を送るだけです」
高山紗代子
「……………」
高山紗代子
「奈緒ちゃん、いつまで経っても敬語止めてくれないんだね」
横山奈緒
「………大企業の会長様、しかも大スポンサー様にタメ口なんて聞けませんですわよ」
高山紗代子
「……………」
横山奈緒
「……………………」
横山奈緒
静けさを取り戻した空気に、田園の方から聴こえるオオヨシキリの鳴き声が響く。
高山紗代子
「……あんな大きな鉄の塊が、物凄いスピードで飛んで行くんだね」
横山奈緒
「エンジンがバケモンやさかい、ですから。律子さん、とんでもないタービン造りましたわ」
高山紗代子
「じゃあ、あれを何十機も造れば……」
横山奈緒
「無理やで、です」
高山紗代子
「そ、そうなの?」
横山奈緒
「エンジンだけならまだしも、それを乗っける機体が量産出来ひん、出来ません」
横山奈緒
「千鶴さんの設計、精度が高過ぎて加工に時間と労力が掛かり過ぎん、るんです」
高山紗代子
「はー、やっぱり千鶴さんて凄いんだね……」
横山奈緒
物理力学、素材工学の大権威を指して今更何を言うのか、と苛つく。
横山奈緒
「そこいらへんの細かい所は私らがやりますよって」
横山奈緒
「女神様はどうぞ、悠々と盤上を眺めててくれたらええねん」
高山紗代子
「……でも、そろそろそうも言ってられなくなりそうなんだよ」
横山奈緒
「………………………………………………………………………もう、限界なんか?」
高山紗代子
「やっぱり千鶴さん、駒を揃えるのに無理し過ぎたみたい。あとどれくらい保つか……」
横山奈緒
「この隊に貴音さんを呼ばなかったのも、何か関係有るんか?」
高山紗代子
「………貴音さん、一週間前に突然除隊しちゃったの」
横山奈緒
「!?」
高山紗代子
「それで、貴音さんの隊の二番機だった菊地さんを呼んだんだけど………」
高山紗代子
「菊地真、彼女は何者なの?」
(台詞数: 43)