高山紗代子
あ、これ夢だ。
高山紗代子
普段見慣れた事務所には誰もおらず、視界に入るもの全てが未着手の塗り絵のように白い。
高山紗代子
昔はよくこういう夢見てたなぁ、と、どこか懐かしささえ感じていた。
高山紗代子
ふと、私は事務所の扉に誰かが立っていることに気付く。
高山紗代子
……歳は14〜5歳だろうか?
高山紗代子
おさげの少女は私の存在に気付いていないのか、微動だにせずただ俯いている。
高山紗代子
入って来たら?と手を差しのばすが、少女は顔を上げようともしない。
高山紗代子
……ぎゅっと握り締められた拳が、紫紺のスカートに小さなシワを作っている。
高山紗代子
ーーこっちに来たら、楽しいことがいっぱいあるのに。
高山紗代子
そう伝えようと口を開くが、私の言葉は白い部屋に溶けて消え、目の前の少女には届かない。
高山紗代子
ただ、私は知っていた。
高山紗代子
深海のように沈んだ少女の心には、小さな若木がしっかりと芽生えていることを。
高山紗代子
愚直に伸びることしか知らない幹には、確かな情熱が脈々と息づいていることを。
高山紗代子
気が付けば、少女はその若木を守るように抱きながら、その場にしゃがみ込んでしまった。
高山紗代子
違うよ。 そうじゃないよ。
高山紗代子
私は溶けていくと分かっている言葉を、それでも必死に訴え続ける。
高山紗代子
あと少し。
高山紗代子
あと少し。 あとほんの少しだけ顔を上げてくれれば分かるのに。
高山紗代子
どこまでも広がる空も。
高山紗代子
どこまでも広がる空も。 仲間を待っていた樹々も。
高山紗代子
どこまでも広がる空も。 仲間を待っていた樹々も。 風の伴奏や、小鳥達の歌声も。
高山紗代子
みんなみんな、あなたを待っているんだよ。
高山紗代子
ーーふわり、と。
高山紗代子
ーーふわり、と。 不意に自分の身体が浮き上がる感覚。
高山紗代子
……夢が終わる。 目覚めの時が近いんだ。
高山紗代子
私の声は少女には届かず、必死に伸ばした手も虚しく空を切る。
高山紗代子
悔しい。
高山紗代子
悔しい。 あと少し、あと少しなのに。
高山紗代子
それでも諦めまいと必死にもがく私は、ふとある事に気が付いた。
高山紗代子
うずくまる少女の向こう。
高山紗代子
うずくまる少女の向こう。 その向こう側に、何かある。
高山紗代子
少女も『それ』に気付いたのだろう、顔を上げゆっくりと後ろを振り向ーーーー
高山紗代子
ーーーーー
高山紗代子
ーーーーーはっ!?
高山紗代子
突然飛び起きた私に驚いたのか、目を見開いた小鳥さんと目があった。
高山紗代子
「ふふ。寝ぼけちゃったのね」 少しだけ意地悪そうに、小鳥さんが私を見て笑う。
高山紗代子
照れ笑いで誤魔化していると、視線の先にもう1人。 同じように笑う人がいる。
高山紗代子
抗議するように唇を尖らせると、その人は「悪い悪い」と言いながら私の頭をそっと撫でてくれた。
高山紗代子
……手のひらの温もりが、覚醒しきっていない頭にはとても心地良い。
高山紗代子
ーー今頃はきっと、少女も私と同じ顔をしているんだろうな。
高山紗代子
そう思った私は、心の中でそっと少女に呟いた。
高山紗代子
ーーね?だから言ったでしょ?
(台詞数: 42)