如月千早
タッタッタッ……
如月千早
「ふぅっ、今日はいい天気ね」
如月千早
私は土手を登りきった所で走る足を止め、目の前に広がる清々しい朝日を見渡した。
如月千早
「きれい……」
如月千早
最近、私は早朝に勉強や自主トレーニングをするようにしている。
如月千早
きっかけは、アイドルの仕事が忙しくなり、帰宅後にまとまった時間が取れなくなってきたこと――
如月千早
もあるが……実は春香と真美が出演しているバラエティ番組を観たことだった。
如月千早
(アマミトーーク! は本当に面白い番組よね。時々、ためになるし)
如月千早
(それにしても以前の私だったら、信じられない変化よね)
如月千早
薄紫色に明らむ東の空を見上げながら、歩く。
如月千早
以前の私は……テレビ番組から何かを学び取るなどという考え方は無かったと想う。
如月千早
それどころか、私が興味がない・意味がないと思うものは他人でさえも「邪魔だ」と想っていた。
如月千早
私の夢には、目標へいたるには余計なものはいらない、と。
如月千早
振り返ってみれば……私は生き急いでいたと想う。
如月千早
《私には、やらなければいけないことがある》
如月千早
《私には、やらなければいけないことがある》《叶えなければならない責務がある》
如月千早
それは私の思い上がった自意識であり、同時に一つの強い原動力でもあった。
如月千早
大切な者を失ってもなお……我がままな夢を貫くには「言い訳」が必要だったのかもしれない。
如月千早
「私にはこれしかない」『私はそれだけでいい』【他には何も要らない】
如月千早
そう想って……
如月千早
そう想って……きっと不安だった、のだと想う。
如月千早
(本当にアイドル活動などという回り道をしていて、ボーカリストとして大成できるのか)
如月千早
(こうして余計な時間を費やす間に、ライバルは歌の技術を高めて私を置いていくだろう)
如月千早
(それに歌は「ただ上手いだけ」では認められない。評価は人気や流行にも左右される)
如月千早
(もちろん歌に対する気持ちや取組み方、技術において……誰にも負けてるつもりはない。けれど)
如月千早
― 私は本当に「これ」で生きていけるの? ―
如月千早
…………
如月千早
…………「何のためだろう~♪」
如月千早
「誰のためだろう~♪
如月千早
「誰のためだろう~♪ 迷うときも、あるよ。」
如月千早
「人はそう、みんな……」
如月千早
春香やプロデューサーや765プロの皆と出会って、色んな経験をして……私は決めたことがある。
如月千早
もう焦らない。
如月千早
私はたぶん、夢や目標がない人のことを見下していた。焦りのない人たちを嫌ってすらいたと想う。
如月千早
だけどそれは、間違っていた。一人一人、歩くペースも方向も強さも弱さも違うのだ。
如月千早
私はたとえ夢や目標がなくても、普通の…それでも前向きに自分にできることを
如月千早
一つずつ、「みんなの幸せ」を願って、少しでも進んでいこうと頑張れる。
如月千早
そういう子の「普通である」強さを、尊さを知ったから。
如月千早
「だから私は、私にできることを。しっくりとゆっくりと……よね」
如月千早
歩きながら自然と想いが口に出ていた。外の景色は朝日の輝きで美しく明るんできていた。
如月千早
空から降り注ぐ、柔らかな光を全身に浴びて、私は大きく深呼吸をする。
如月千早
大丈夫。歩こう。今日の私がここから始まる。自分のペースでいいんだ。
如月千早
眩しい景色の広がりに、なぜか胸の奥が温かく感じ、そして私は歌いながら前へと駆け出した。
如月千早
「一歩ずつ、そしてまた一歩ずつ……♪」
如月千早
タッタッタッ……
(台詞数: 45)