木下ひなた
『ありきたりな言葉だけど♪どうぞヨロシクね!♪』
馬場このみ
あたたかな光に照らされた野外ステージで、ひなたちゃんはマイクを両手に持って歌っている。
馬場このみ
身長や体つきは変わっていても、その表情、その歌声は私のいた5年前と何一つ変わらない。
松田亜利沙
「いやぁ、ひなたちゃんのステージはいつ見ても癒されますねぇ」
馬場このみ
「ホントよねぇ。なんていうか、技術じゃないのよね。私じゃこうはいかないもの」
松田亜利沙
「このみさんはうちの事務所のアダルティ担当でしたからね。あ、でも、一度だけ……」
馬場このみ
「うそっ!?なにかやったの、私!?」
松田亜利沙
「あ、3年前でしたから知らないんですよね。むふふ～、実はですね～」
木下ひなた
『みんな、今日はあたしのライブに来てくれて、ありがとうございます』
馬場このみ
亜利沙ちゃんの声を遮るようにモニターからひなたちゃんのMCが流れた。
木下ひなた
『こっだらたくさんのファンの人が来てくれるだなんて、正直、びっくりなんだわぁ』
木下ひなた
『あたし歌も踊りもまだまだだけんども精一杯頑張っから最後まで楽しんでくれたら嬉しいなぁ!』
馬場このみ
会場が拍手に包まれると、すぐに2曲目の「Helloコンチェルト」のイントロが流れ始めた。
松田亜利沙
「ちょっと待ってください!もう一度MCを聞いてもいいですか!?」
馬場このみ
「何かわかったの、亜利沙ちゃん!?」
馬場このみ
慌てて一時停止ボタンを押しリモコンを渡すと、亜利沙ちゃんは映像を巻き戻し始めた。
松田亜利沙
「はい!!えーっと……ここです!」
馬場このみ
「ここ?照れてる顔にしか見えないけど、これがどうしたの?」
松田亜利沙
「……可愛すぎるんですよぉ!もう、ひなたちゅわ～ん♪って感じで!」
馬場このみ
……真面目に相手した私がバカだった。
松田亜利沙
「す、すみません、そんな顔しないでください。私だって真面目に探しているんですよ?でも……」
馬場このみ
「そうねぇ。おかしな様子は全くないわね。この頃は大丈夫ってことかしら?」
松田亜利沙
「でも、これは今年の春のライブですよ?莉緒さんの言うことが正しいなら、この時には……」
馬場このみ
そう、莉緒ちゃんが言うにはひなたちゃんの様子がおかしいのは今年になってから。
馬場このみ
それならこのライブでもなにか手掛かりが見つかるかと思っていたのだけど……
松田亜利沙
「私の担当プロデューサーも律子さんですから、ひなたちゃんと一緒にお仕事に行くんです」
松田亜利沙
「でも、ひなたちゃんに変な様子はないですし、楽屋でも楽しくお話できていますし……」
馬場このみ
「もっと具体的に聞いておくべきだったわね。莉緒ちゃんの海外ロケ、いつまでだったかしら」
馬場このみ
モニターから流れるひなたちゃんの歌声とは正反対の深く暗いため息が2つ、資料室にこぼれた。
馬場このみ
「……直接、ひなたちゃんに聞いてみようかしら」
松田亜利沙
「ええっ!?本気ですか?」
馬場このみ
「もしかしたら、莉緒ちゃんの勘違いかもしれないじゃない?」
馬場このみ
「というか、このライブ映像や亜利沙ちゃんの話で、勘違いだと思わないほうがおかしいわよ」
松田亜利沙
「確かに、そうですね。私もピンときていないですし」
馬場このみ
「明日、ひなたちゃんは可奈ちゃんと現場が一緒だからちょうどいいのよ」
馬場このみ
「律子ちゃんにはもともと話を聞く予定だったし、一石二鳥ってこと」
松田亜利沙
「あいまいにしておきたくない問題ですから、早いほうがいいですもんね」
松田亜利沙
「それじゃあこのみさん、よろしくお願いします!」
馬場このみ
「お願いしますだなんて、まるでひなたちゃんが亜利沙ちゃんの担当アイドルみたいね」
松田亜利沙
「ひなたちゃんは大事なアイドル仲間なんです!それぐらいの気持ちでいて当然なんです!」
馬場このみ
亜利沙ちゃんは鼻息荒く、そう主張した。
木下ひなた
『Hello Hello みんな集まれ♪キミのパートが待ってる♪』
馬場このみ
ひなたちゃんの歌声が会場のコールと一体化する。
馬場このみ
この無邪気で純朴でお日様のような笑顔にウソがあるはずがない。
馬場このみ
私はゆったりと椅子に座りモニターを眺めた。
木下ひなた
『世界で一番元気になるコンチェルト♪』
馬場このみ
それにもし何かあったとしても亜利沙ちゃんみたいな誇れる仲間がたくさんいる。きっと大丈夫だ。
木下ひなた
『一緒につくろう!みんなで作ろう!♪』
松田亜利沙
「Thank youーーー!!」
馬場このみ
……大丈夫、よね?
(台詞数: 50)