その顔はあの日見た母に似て
BGM
Snow White
脚本家
nmcA
投稿日時
2017-06-06 23:54:04

脚本家コメント
たまにはこんな亜利沙も

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松田亜利沙
「イヤなわけじゃなくてですね。その、まさかありさに頼まれるとは思っていなかったので……」
松田亜利沙
初夏の風を頬で感じつつ、私は手の中のそれをじっと見た。
松田亜利沙
「……どうして、ありさなんです?」
松田亜利沙
「お店に頼めないのは分かりますよ、アイドルですし。でも、そらさんに頼めば確実なのに」
松田亜利沙
彼女は少しはにかんで、ゆっくりと、そしてしっかりと口を動かした。
松田亜利沙
――私は、そう思ったの――
松田亜利沙
『こらっ!亜利沙ちゃん、ぼぉっとしないで!』
松田亜利沙
そらさんの声に身体がびくりと浮き上がる。机に膝がぶつかる音がまだ明るい暗室に響き渡った。
松田亜利沙
『フィルム現像の失敗は取り返しがつかないんだからね。ちゃんと話を聞いて』
松田亜利沙
両ひざの痛みを我慢しつつ、手持ちのメモ帳にかじりつく。
松田亜利沙
『どこまで大丈夫?リールへのフィルムの巻き方はいけそう?』
松田亜利沙
タンブラーよりやや小さい銀色の筒が、そらさんの左手の中で鈍く光り、私の顔を映している。
松田亜利沙
――私は、そう思ったの。任せるなら他にいないって――
松田亜利沙
昨日の声がまた蘇る。私は本当にそんな顔をしていたのだろうか。
松田亜利沙
『あ~り~さ~ちゃ~ん??』
松田亜利沙
「ひうっ!?」
松田亜利沙
今度はペンを落とした。慌てて拾おうとしてしゃがみこむと頭を机の角にぶつけてしまった。
松田亜利沙
『はぁ……ねぇ、何かあったの?急にフィルム現像を教えて欲しいだなんて言い出すし』
松田亜利沙
腰に手を当てたそらさんの顔には、呆れるという字が顔に貼ってあるようだった。
松田亜利沙
しかし、私が疑問に思っていることを聞くならそらさん以上の人はいない。ため息覚悟で口を開く。
松田亜利沙
「あの~……写真を撮っているときのありさの顔ってどんなですか?」
松田亜利沙
腰から手を離したそらさんが案の定、怪訝な顔をする。
松田亜利沙
「フィルムを渡されたときに言われたんです、ありさの顔について。別に悪口じゃなくてですね」
松田亜利沙
しどろもどろになりながら説明すると、そらさんは椅子に座って何かを考え始めた。
松田亜利沙
『……亜利沙ちゃん、ちょっとカメラ貸して』
松田亜利沙
そらさんは私のカメラを慣れた手つきで操作し、中から一枚の画像を見せた。
松田亜利沙
「これは……桃子ちゃんと育ちゃんと、それに千早さんですね」
松田亜利沙
『これ、いい写真ね』
松田亜利沙
「そう思いますか!いや~、ありさも手前味噌ながらそう思っていたんですよ~。特にこの……」
松田亜利沙
『はいはい、わかったから。それで亜利沙ちゃんはどうしていい写真が撮れたと思う?』
松田亜利沙
「え?そりゃあ、3人とも可愛いからじゃないでしょうかね?」
松田亜利沙
『……まぁ、亜利沙ちゃんは写真に撮られることより撮ることのほうが多いものね』
松田亜利沙
私が頭に?を浮かべていると、そらさんは自分のカメラから一枚の画像を見せた。
松田亜利沙
「こ、こ、これは写真を撮っているありさじゃないですかぁ!?盗撮はダメですよぉ」
松田亜利沙
『……どの口が言うのかしら。いいから、ほら、見て。この亜利沙ちゃんの顔』
松田亜利沙
そらさんに言われるがまま、写真の中の自分をまじまじと見る。
松田亜利沙
『……知ってた?こんな顔してたのよ、亜利沙ちゃん。これがいい写真が撮れた答えよ』
松田亜利沙
そらさんが私の頭をポンと叩いた。
松田亜利沙
……写真の中の私は目じりを下げ、口角を少しだけ上げ、頬をほんのりと上気させている。
松田亜利沙
――私は、そう思ったの。任せるなら他にいない、松田さん以外にいないって――
松田亜利沙
昨日の光景がリフレインする。そういえば、フィルムはこの写真を撮った次の日に受け取ったのだ。
松田亜利沙
机の上のフィルムに手を伸ばす。中にどんな写真が写っているかはもちろんわからない。
松田亜利沙
でも、千早ちゃんが私に投げかけてくれた言葉がそのままの意味ならば、このフィルムには……
松田亜利沙
「そらさん!ありさ、集中します!全力全霊で現像します!だから……よろしくお願いします!」
松田亜利沙
そらさんは、私の決意に笑顔を返してくれた。
松田亜利沙
――「……どうして、ありさなんです?」
松田亜利沙
「お店に頼めないのは分かりますよ、アイドルですし。でも、そらさんに頼めば確実なのに」
松田亜利沙
千早ちゃんは少しはにかんで、ゆっくりと、そしてしっかりと口を動かした。
松田亜利沙
――私は、そう思ったの。任せるなら他にいない、松田さん以外にいないって。だって……
松田亜利沙
――写真を撮っているときの顔がとても穏やかで慈愛に満ちていたものだったから。

(台詞数: 50)