馬場このみ 29歳 プロデューサー 8話
BGM
ENERGY_RMX
脚本家
nmcA
投稿日時
2017-05-01 12:13:27

脚本家コメント
第1章「名ばかりヴィンテージワイン」
【ここまでのお話】
 武道館ライブ後、仮眠をしていたこのみは5年後の765プロに心だけタイムスリップしていた。自らの身体の変化に戸惑うものの、プロデューサーとして活動することを決意する。
 このみが担当する紗代子と百合子とのユニット『スピカ』は、自分たちの長所であるボーカルとビジュアルが流行にそぐわないため、勢いを落としていた。このみは次のフェスを成功させるため、策を練ろうとする。

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馬場このみ
「……なるほどねぇ」
馬場このみ
たくさんのモニターに囲まれて、私は目頭を抑えながら大きく伸びをする。
馬場このみ
小さくひとつ息をついて目を開けるとピョコピョコ動く二本の触覚が目に入った。
松田亜利沙
「首尾はどうですか?まだまだ資料はありますんでいっぱい頼ってくださいね」
馬場このみ
亜利沙ちゃんが紅茶を渡してくれた。今はアイドル兼765プロ資料室管理人をやっているそうだ。
馬場このみ
「ううん、今日のところはこれで最後にしておくわ」
馬場このみ
紅茶に口をつけると、口の中にアッサムの香りが広がる。行き詰まった心が少し解けた気がした。
松田亜利沙
「あまり上手くいってないようですね……」
馬場このみ
「短所をカバーする演出って難しいわね。長所を伸ばす演出のほうが多いもの」
松田亜利沙
「カバーするにも限度がありますからね。出来ないなら見せないような演出になりますし」
馬場このみ
5年の技術さえあればどうにかなるかと思っていたが、そう都合良くいかないものだ。
松田亜利沙
「いっそのこと、ダンスのアイドルをゲストとして入れてみませんか?」
松田亜利沙
「透明感のある歌声なら麗花ちゃんとか昴ちゃんとか選べますよ」
馬場このみ
確かにその2人ならスピカの雰囲気に合うかもしれない。
馬場このみ
麗花ちゃんは歌声だけでなく場を支配する雰囲気もある。
馬場このみ
昴ちゃんは紗代子ちゃんとも百合子ちゃんともユニットを組んだことがある。でも……
馬場このみ
「それは……止めておくわ。スピカは2人のユニットなの。2人でどうにかしたい」
馬場このみ
「それにダンスの子が入って成功したら傷付くんじゃないかしら……。特にあの2人はね」
馬場このみ
モニターから響いていたコール音が拍手に変わりステージが終わる。資料室を無音が包み込んだ。
真壁瑞希
「失礼します」
松田亜利沙
「おや、瑞希ちゃん、資料室に来るなんて珍しいですね」
真壁瑞希
「青羽さんにプロデューサーの場所を聞いたらここだと言われたので」
馬場このみ
「あら、美咲ちゃんったらよく知ってたわね。それで、どうしたの?」
真壁瑞希
「はい。明日の営業について相談が……お邪魔でしたか?」
馬場このみ
「ちょうど行き詰まったところだから問題ないわ。明日は番組のロケよね?」
馬場このみ
バッグから手帳を取り出し確認する。風花ちゃんと一緒に茨城に行く仕事が入っている。
真壁瑞希
「はい。実は2人で行くつもりでしたが、律子さんからこのみさんを誘ってはと言われまして」
馬場このみ
「律子ちゃんが?……まぁ、なんとかならなくはないけど……。ああ、そういう」
馬場このみ
詳しい仕事内容を見て合点がいった。律子ちゃんなりの気遣いというわけだ。
松田亜利沙
「そうだ!瑞希ちゃん、せっかくだから相談に乗ってくれませんか?実はですね」
馬場このみ
亜利沙ちゃんが端的に熱意を込めて説明する。
真壁瑞希
「なるほど、紗代子さんと百合子さんの……」
松田亜利沙
「ダンスの得意な瑞希ちゃんならいい考えが浮かばないかなと思ったんですけど」
真壁瑞希
「……すみません。すぐにはどうも」
馬場このみ
まぁ、ダンスが得意で思い付くなら私は相談なんてせずに済むのだけれど。
真壁瑞希
「……そういえば、一度大成功したことがありませんでしたか?」
松田亜利沙
「ああ、あの時ですね。でもあれはレアケースというかなんというか」
馬場このみ
そう言って亜利沙ちゃんはモニターにとあるフェスの映像を流し始めた。
馬場このみ
「これ……すごいじゃない!他のフェスとは盛り上がり方が全然違うわ」
松田亜利沙
「この時は新曲の発表と合わせたんです。いわゆるサプライズですよね」
松田亜利沙
「実力のある2人が新曲をフェス一発目!ですからね。流行なんてなんのその!当然の結果です!」
馬場このみ
なるほど。29歳の私も憎いことをやるもんだ。
松田亜利沙
「……でも、この方法は使えませんね。今から新曲だなんて無理ですもん」
真壁瑞希
「……紗代子さんと百合子さんなら、曲さえあればなんとかしそうな気はしますが」
馬場このみ
瑞希ちゃんの言葉にみんなついつい納得してしまって、資料室に笑いが溢れた。
馬場このみ
……新曲を歌って成功した。確かに亜利沙ちゃんのいうとおり作戦としては使えない。
馬場このみ
しかし、この作戦はチクチクと針を刺すように私の記憶に残ったのだった。

(台詞数: 47)