これは…撮気(さっき)!?
BGM
Up!10sion♪Pleeeeeeeeease!
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2017-03-19 21:29:57

脚本家コメント
バトルもの

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早坂そら
本当に、本当に微かな気配…。
早坂そら
まるで、地面で遊ぶ小鳥のように、音も無く。
早坂そら
しかし、背後から叩きつけてくるような強烈なものは、隠しようがなかった。
早坂そら
これは…撮気(さっき)!?
早坂そら
お前を撮る。隠しても撮る。恥ずかしがっても撮る。レアな写真を撮る。
早坂そら
濃厚に漂う撮気が雄弁に語る数々の意志に、私は確信した。
早坂そら
相手は、生粋の撮人者(さつじんしゃ)。
早坂そら
人を欲望のままに撮って、撮って、撮り続けた。業にまみれた存在であると。
早坂そら
…最近、劇場の付近を歩くアイドルが、何者かによって撮られる事件が頻発していた。
早坂そら
業を煮やした高木社長の手によって私が派遣されたのは、必然と言える。
早坂そら
目には目を。撮人者には、撮人者を。そのやり口、狙いどころは熟知していると言ってもいい。
早坂そら
案の定、相手は私が用意した単純なエサに、あっさりと引っかかった。
早坂そら
…と、思ったのはさっきまでのこと。
早坂そら
どうやら、向こうは罠ごとこちらを喰い破るつもりらしい。
早坂そら
私はバッグから愛用のカメラを取り出し、いつでも撮れる態勢に身構えた。
早坂そら
撮らなければ…撮られる!
早坂そら
そう心に決めた瞬間、私の体からも周囲を圧し潰すような撮気が放出された。
早坂そら
意志の弱いものであれば、思わずその場でポーズをとって、撮られるがままになってしまうだろう。
早坂そら
しかし、何物とも知れないその撮人者はひるむ様子も見せず、一直線に間合いを詰めてきた!
早坂そら
間合いまで、あと三、二、一歩…。
早坂そら
…上!
早坂そら
まるでアイドルのような軽快なステップから、ジャンプ。
早坂そら
私の頭上を飛び越えるようにして交錯し、撮ろうというのだろう。
早坂そら
予想はしていたけど…速い!?
早坂そら
このままでは、良くて相討ち。ならば…!
早坂そら
『はーい。こっちにカメラ目線くださーい。』
早坂そら
私は、禁断の言葉を口にした。
早坂そら
思わずカメラを下げ、視線をこちらに向けたその隙を、私は見逃さない。
早坂そら
フラッシュ一閃。
早坂そら
私のカメラは、撮人者の顔を、その鼻の穴が奥まで写るほどに、存分に撮っていた。
早坂そら
(アイドルとして)致命傷である。
早坂そら
…撮った。
早坂そら
名も知らぬ撮人者の『やーん!』という断末魔の叫びを聞き流しながら、私はその場を後にする。
早坂そら
恐ろしい相手だった。でも…。
早坂そら
彼女も所詮は撮られる側だった、ということか。
早坂そら
奥の手を使わされたとはいえ、撮ることを生業とした私には敵うはずもない。
早坂そら
そう自分に言い聞かせながらも、気分は晴れなかった。
早坂そら
プロがアマチュアに全力を出して完封試合をしたような、後味の悪さが胸に残っている。
早坂そら
この写真は、ポイントガシャにでも入れておこう。きっと親切な誰かが届け出るに違いない。
早坂そら
今回の後始末の算段をつけると、やけに冷えるなと、私は天を仰ぎ見た。
早坂そら
季節外れの雪が、降っていた。

(台詞数: 41)