周防桃子
準決勝の第一試合…桃子と春香さんの対戦の日。
周防桃子
桃子は後攻なので、舞台袖で自分の番を待っていた。
周防桃子
そして、春香さんはちょうど今ステージに立って、MCを始めようとしているところ。
天海春香
「私、ファンのみなさんの応援のおかげで、準決勝まで来れました!」
天海春香
「今日も、ここに来てくれた人たちのために、精一杯歌います!」
天海春香
「聞いてください…『MEGARE!』」
周防桃子
春香さんが出してきたのは、やはり自分のイメージを活かしたアイドルソングだった。
天海春香
『私だけができるスマイル めちゃめちゃ魅力でしょ?』
天海春香
『私だけのとっておきポーズ ドッキリ&セクシー?』
周防桃子
この歌はAS組ならみんな歌っているけど、明るめの曲調は、春香さんには特に良く似合う。
周防桃子
やっぱり、今回も『王道』で勝負に来たね…!
天海春香
『ハッキリ愚痴を言わせてもらうと 芸能活動シンドイです』
天海春香
『だって万年睡眠不足でお休み未定だし(ふう)』
周防桃子
キュートに。コミカルに。セクシーに。春香さんのパフォーマンスは、見る人を飽きさせない。
天海春香
『イツイツまでにナニナニしないと 間に合わないからヨロシクちゃんって!』
天海春香
『ダンスも歌もお芝居もセリフも 覚えられないっっ!』
周防桃子
でも、それだけじゃない。ここから春香さんとファンの顔をいっしょに見ると、良くわかる。
天海春香
『でもね あなたがいると私くじけない』
天海春香
『「オトナノジジョー」で決まった つらい事でも乗り越えられるよ ファイト!』
周防桃子
春香さんは観客席を良く見ていて、ところどころでファンに「メッセージ」を送っていた。
周防桃子
笑顔やポーズ、目線。仕草。そして、細かく、ていねいに、できるだけ多くの人に。何度も何度も。
周防桃子
すると、ファンの方でも、春香さんが自分を見てくれるんだと思って、うれしくなってくる。
周防桃子
おたがいに気もちがつながるわけだから、これで盛り上がらないハズがない。
天海春香
『私だけが持っているボイス 届いているのかな?』
天海春香
『私だけのパフォーマンス 感動させられるかな?』
周防桃子
まさに「みんな」といっしょに作り上げるステージ。まさに一体感。
周防桃子
春香さん自身は、みんなに楽しんでもらいたいって一心なんだと思う。
周防桃子
そんな風に、勝負の場でもファンのことを第一に考えるのが、春香さんの強さであり怖さだ。
周防桃子
そして、それがライブバトルでは、他を寄せつけない最大の武器にもなっている。
天海春香
『めざせアイドルNo.1 応援してね』
天海春香
『今日も明日もトレーニング! これぞプロでしょ!』
周防桃子
…歌が終わった。
周防桃子
待ちきれなかったように、拍手と歓声がわっとステージに押し寄せてきた。
周防桃子
桃子のいる舞台袖まで、熱気が伝わってくるようだ。
周防桃子
…なるほど、あの時の琴葉さんの気もちが良くわかった。
周防桃子
ここにあるのは、アイドルの理想の形の一つ。
周防桃子
それに比べたら、勝負にこだわっている桃子は、不純じゃないのか、とか。
周防桃子
春香さんのようにこの盛り上がりを作り出すことが、桃子にはできるのか、とか。
周防桃子
この場を支配する空気が、桃子にそんなことを問いかけてくるように思える。
周防桃子
だから、桃子は…。
周防桃子
「うん。桃子は不純だし、春香さんのようにはできないね。」
周防桃子
そうつぶやいて、そして笑った。
周防桃子
それまで、ずっと桃子を見守るだけだった貴音さんも、桃子を見てほほ笑みを浮かべている。
四条貴音
「何かを掴んだようですね、桃子?」
周防桃子
その問いかけに、桃子は答えた。
周防桃子
「つかんだって言うか、桃子は桃子なんだなって、それだけ。」
周防桃子
ちょうどその時、スタッフから桃子の番の準備ができたって合図が来た。
周防桃子
「じゃあ、行ってくるね、貴音さん。」
四条貴音
「大物喰いは勝負の華です。楽しんできなさい、桃子。」
周防桃子
貴音さんに見送られながら、桃子はステージへと一歩を踏み出した。
(台詞数: 50)